新刊ラジオ第1617回 「65歳定年制の罠」
年金支給年齢が65歳に引き上げられたことで、4月から定年制度が変わり、希望すれば65歳まで働けるようになります。定年世代にとってはひと安心ですが、一方、現役世代にシワ寄せがきて、ミドルも若い世代も不都合をこうむると報じられています。その実態はどうなのか? 65歳定年制度の問題を様々な視点から解き明かす一冊です。
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
概要
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
さて、今回紹介する本は定年制度について書かれた本なのですが、まだまだ先のことと思っていませんか?
ところがこの制度、年金制度と大きく係わっているのです。
961年より後に生まれた方は65歳になるまで年金がもらえないことは御存知ですよね。60歳で定年退職してから65歳まで年金の空白期間が生まれるのです。
その5年間を埋めるために国は定年を65歳まで引き上げたというわけです。
でも現場での対応は個々の企業まかせ。
大企業ならともかく、生き残りに必死の中小企業にそんな余裕はありません。制度に現場が追いついていかないために混乱は避けられないのです。
それでは、早速内容の方を見ていきましょう。
◆著者プロフィール 岩崎日出俊さんは、1953年、東京生まれ。投資・経営コンサルタント会社「インフィニティ」代表取締役。スタートアップ企業に対するシード・インベストメントやアーリーステージ・インベストメントの専門家です。 早稲田大学政経学部卒業後、日本興業銀行に入行。スタンフォード大学経営大学院でMBA取得。98年より03年までJPモルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズにてマネージング・ダイレクターとして活躍していました。その経験を活かし多数の著書を書かれています。
再雇用後の社内いじめについて
いきなりですが、ちょっと重い話から。
60歳定年になって派遣や嘱託として再雇用されたシニアが、現役世代中心の職場に配属されるとどうなるか、お互いにやりにくく、苦労することが多くなりますが、本書の冒頭で、臨場感あふれる具体例として紹介されています。
佐藤さん(仮名)は先月まで大手電子部品メーカーの部付き部長を務めていました。
そして今月、60歳になると同時に、会社の新しい人事制度のもとで再雇用されて、関連会社のマーケティング管理部へと派遣されました。
「今度の派遣社員は親会社の元部長だった人らしいよ」 「部長だったといっても部付き部長だからな」 「しかしそんな派遣社員は使いにくくてかなわないよ。まったくいつまで親会社の身勝手が続くんだ」 (P11より抜粋)
そのあと、若手社員の「我われの給料が上がらないのは、こんなお荷物社員のせいなのよね」といったグチが聞こえてきます。
はい、本編から抜粋させていただきました。
そもそもこの制度は、企業側からすれば、定年延長によって65歳まで働く場を提供せよという国からの押し付けであり、それによって生じる人件費は60歳以下の社員の給与総額を圧縮して捻出しなければならなくなってしまいます。
そうなると若手側は定年後も居座っている60歳以上の社員のせいで自分達の給料が減らされたり、上がらないという不満に繋がるのです。
■自分の人生を生きる
本書ではこのように65歳定年制度の問題を制度や現場のさまざまな角度から取り上げていますが、根底を流れるテーマは「会社にしがみつかないで自分の人生を生きる」ということです。
著者の岩崎さん自身、40代の半ばで、多額の借金を抱えながら日本興業銀行を飛び出し、JPモルガンなどの外資系投資銀行に転職しました。
そして49歳で外資系を退社して現在の会社インフィニティを起業しています。
本書の中に出てくる一節ですが「みなさんの中には、日々の業務に追われて、自分の人生を考えてみる余裕などないという人も多いでしょう。
しかし日本航空のような大企業が破綻し、パナソニックやシャープ、ソニーが業績悪化に苦しみ、外資系金融機関でも欧州系を中心に不採算部門を日本から撤退させる動きがあるといったような状況に鑑みれば、今自分が勤めている会社の次、すなわち『ネクスト・ステージ』を意識しなければならない」と著者の岩崎さんは言います。
その1つの選択肢として独立・起業をあげています。
失敗から立ち上がる者が成功する
本書の後半では、ビジネスマンとしてのキャリアをどう積み上げていくか、自分の人生を生きるということはどういうことか、について語られており、若い世代が読んでも非常に興味深い内容になっています。
ご自身が数々のベンチャー投資を行ってきた経験から「失敗から立ち上がる者が成功する」と題して数多くの起業家の事例を紹介しています。
中にはこれまで常識とされていたセオリーに反するような法則も語られています。
たとえば「部下に嫌われる起業家が大きく成功する」とか「お人好しの事業は拡大しない」といった点についても詳しく述べられていますが、この辺は起業を考えている人や企業で新規ビジネスを担当している人などには参考になるところだと思います。
■失敗の事例
本書のもう一つの特徴は失敗の事例が豊富なことです。
たとえばネイルサロンを起業した人の話やヨガスタジオを始めた女性の話も出てきます。
ヨガスタジオを始めた人は結局2年でスタジオ閉鎖に追い込まれてしまったのですが、いったい何が問題だったのか、あるいはネイルサロンでは1対1の法則が支配するから事業が難しいといった話も出てきますが、この1対1の法則の話などは今の仕事でも参考になると思います。
ラーメン屋を始めて上手く行ったと思ったら、隣に1杯280円の讃岐うどんが進出してきたなどという話も出てきます。
■外資系を辞めて起業したが失敗した人の例
それと意外だったのが外資系の投資銀行やコンサルタント会社を辞めて起業した人の例。
よく世間では成功例しか報じられていないため、なかなか失敗例を耳にすることが少ないのですが、実は失敗している方がたくさんいるそうです。
なかには外資系を辞めてコンサル会社を立ち上げたけれどもうまくいかず「夜は都心の○○ホテルでフロントのバイトをしています」と電話してくる後輩もいるのだとか……なにが成功と失敗を分けるのか、本書の中には多くのヒントがちりばめられています。
人に嫌われても「けち」に徹する
もうひとつ、本書から引用してみましょう。
「私が知る限り、成功している経営者はほぼ100パーセントけちです。プライベートの世界では、けちというのは好まれませんが、ことビジネスの世界では、けちは勲章、ビジネスに厳しいことを意味します。たとえ相手に嫌な顔をされようが、取引先相手に値段を値切れる人が成功します。逆に交易条件が甘くて、取引先から好かれる人は、表面的にはちやほやされても、うらでは『あの社長はお人よし』だとか『甘い』とか言われて、ばかにされているかもしれません。」 (P132〜133より抜粋)
と、この辺は、まさに投資の専門家として、あるいは経営コンサルタントとして、数々の企業と接してきた著者だからこそ言える話だと思います。
■豊富な事例
本書ではこのほかに年金はいつから、いくらもらえて、老後の生活にはいくらかかるのかといった具体的な話や(ちなみに夫婦で1億円です!)
早期退職を迫られたときに応じるかどうかのチェックポイントも書かれています。
年金制度は破綻しないというのが岩崎さんの持論で安心しました。
そのほか、落ちこぼれてホームレスに転落した後に一念発起して会社を起業し、上場会社にまで成長させた社長の話や、モルガン・スタンレーを70歳で辞めた後にヘッジ・ファンドを立ち上げて大成功させた例など、読んでいて元気になる話や日常のビジネスに役立つ話が次から次へと出てきます。
■まとめ
65歳定年制ということでシニア向けの本かなと思って読み始めたのですが、なかなかどうして、若い世代がキャリアを積んでサバイバルしていく上でのヒントやエールが満載の本でした。
いつ何時、会社が傾いたり、リストラされたり、早期退職を迫られるかもしれない時代です。常にリスクを意識しておきたいと考えさせられる一冊でした。
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