新刊ラジオ第1592回 「僕たちの前途」
主役は「起業をする若者たち」。起業の数、自営業者の数が減少していきながらも、起業者に期待が集まる昨今。起業はたびたび話題にのぼっていますが、「起業の現実」をみなさんは見たことがあるでしょうか。本書は、起業という働き方を、何人かの起業家にスポットを当てて描いていき、若き起業家たちのリアルに迫ります。
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
概要
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
みなさんは「起業」や「起業家」に対してどのようなイメージを持っていますか?
このような話になるとたいてい「画期的なビジネスモデル」や「成功の法則」という話題になりやすいと思います。
しかし、本書はそういった内容ではなく、古市さんが実際に見てきた若い起業家たちの専門性、人間らしさ、そして「つながり方」といったことにスポットをあてた話となっています。
そもそも、起業というテーマはよく話題にのぼるのにもかかわらず、実際起業している若者たちの「現実」が世の中に伝わっていないと古市さんは語っています。
そのため、本書では起業する若者たちのリアルに迫った内容で、起業へ至る道のり、現代の起業家、そして現代の若者の姿が描かれています。
また、本書は大きく分けると二部で構成されています。
第一部は、若手起業家たちの姿を追ったドキュメンタリー。
こちらは起業に興味のある方にとっては、具体例、実践例として参考になる部分が多いです。
そして第二部。
こちらは第一部を踏まえたうえで、「起業」や「起業家」というものを少し俯瞰で捉えた内容となっています。
それでは、今回は第一部の方を少しだけみていきましょう。
◆著者プロフィール 著者の古市憲寿さんは東京大学の大学院の博士課程に在籍しつつ、有限会社ゼントという会社を友人たちと経営。社会学者でもあり、現代の若者をテーマにした著作を発表されています。 ほかにもNEWS WEB 24、NEWS ZERO、クローズアップ現代、とくダネ!等のテレビ番組に出演されているほか、週間PLAYBOYやBRUTUSなどにも執筆をされています。
僕たちのゼント
今回は著者である古市さんが働く「ゼント」について語られている部分についてご紹介させていただきます。
この話の主人公はゼントの社長である松島隆太郎さん。開成高校という進学校に通いながらビジネスをはじめていた彼は、なぜ起業したのか。
キーワードは「日常の延長としての起業」です。
松島さんは、まだパソコンの世帯普及率が10%台、インターネットの世帯利用は5%にも届いていなかった時代に祖父から中学校の入学祝いで買ってもらいました。
それがすべての「きっかけ」だったそうです。
松島さんはもともと機会いじりが好きだったのでパソコンを使ったプログラミングに夢中になります。
そして高校一年のとき、いくつかのサービスをインターネット上に公開しはじめたのです。
サービスが人気になって行ったちょうどその頃、インターネット上の技術系フォーラムで出会った一人の日本人と意気投合し、実際に会うことになりました。
当日待ち合わせ場所にいたのは大手上場企業の部長クラスの人物でした。
相手側としても大人だと思っていたら高校生の少年がいたので困惑したそうです。
しかし、技術的な話になったとたん大人顔負けの知識で、斬新なアイディアを思いついていき、結果として松島さんはその企業の技術顧問を依頼されることになります。
そして、「天才高校生プログラマー」がいるという噂が人づてに徐々に広がっていき、コンサルティングやシステム設計を請け負うようになり、仕事への道に進んでいくことになります。
このことについて古市さんは「天才高校生プログラマー」というのが、時代にマッチしていたのだろうと語っています。
そして、大学受験を控えた時期、予備校に通っている間にも出会いがありました。
ゼント起業メンバー青木健一さんとの出会いです。
松島さんは取引先であった青木さんのところへ頻繁に遊びに行っては、弁当を食べるだけで帰ったり、仕事の邪魔をしたりでめちゃくちゃだったそうですが、青木さんはそんな彼に親近感を覚えて、仕事を依頼するようになりました。
開成高校を卒業するとき松島さんは大学進学という道を選びませんでした。
いい大学に入っていい会社に入って稼ぐよりも、その時点でそれをはるかにしのぐ金額を稼ぎ出していたからです。
松島さんの仕事は順調でした。
その時には複数の会社の顧問をしていたこともあって、お金が使い切れないほど口座に入金されていたそうです。しかしそんな中、多くのお金を稼いでいても人生を楽しめていない自分に気がつきます。
今までは、自分が興味を持っていることに夢中になっていたからこその仕事だったのですが、いつの間にかお金を稼ぐ手段になってしまっていたからです。
一方、同級生たちはキャンパスデビューを果たして、楽しそうな大学生活を送っています。
お金を持っていないのに楽しそうな彼らと、お金をもっているのにどこかむなしい自分。
その時、お金だけあっても幸せになれるわけでないと気がついたそうです。
そして松島さんは自分が手に入れたものは本当に欲しいものだったのか。
自分が本当に欲しいものは何なのかを考えた末、「友だちとわいわい楽しんで生きること」という答えを出しました。
それが「上場を目指さない」「社員は3人から増やさない」「社員全員は同じマンションの別の部屋に住む」として、気の置けない仲間と好きなことをしていく会社「ゼント」をつくることだったのです。
まとめ
本編の一部ということで「ゼント」についてのお話をご紹介させていただきました。
今回は「有限会社ゼント」の社長である松島さんをピックアップさせていただいたのですが、本書は他にも東京ガールズコレクションのプロデューサーさん等、多種多様な起業家の話が載っています。
また、ネタばらし的な脚注や、本文中に出てくるライフネットの岩瀬さんや、高橋歩さん、佐藤健さんなど有名人のコメントが実際のつながりの中で生まれているところも注目ポイントだと思います。
本編では各章ごとに独立するように構成されているので、自分の好みに合わせて読むことができます。
将来どういうことをしていくか、自分が何をしたいのか、そういったことで悩んでいる方は、道しるべとして一度手にとってみてはいかがでしょうか。
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