だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1566回 「大切なひとのためにできること がんと闘った家族の物語」

最愛の人がもしがんになったら、あなたはどう向き合いますか? 本書は、「がん」という病魔に家族で立ち向かった闘病記。がん治療をめぐる、家族の心構え、医師とのやりとり、セカンドオピニオン、新薬「イレッサ」にまつわる体験談、知識などについて詳細に書かれています。体験記を交えながらも、ていねいで客観的な文章が読みやすく、おすすめです。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

もし、最愛の人ががんになってしまったら、あなたはどう向き合いますか?

思い起こせば、僕の祖父も腎盂がんで亡くなりました。

腎臓が悪いとか糖尿病だったことはずっとわかっていたんですけど、「背中が痛い」と言って入院して検査してみるとがんであることがわかって、そのまま入院。

あっという間に亡くなってしまいました。

最近、そろそろ父親も意識し始めたみたいで、

「俺、がんになったら変に治療とかしないであっさり死んじまいたいな」

・・なんて、怖いことを言うんですよ。

「ちょっとお父さんやめてよ〜」と返していますが(^^;)父親も60歳になりますので心配です。

さて、今回紹介する本は、“がんになってしまった父と、父と共に病魔に立ち向かったある一家”のノンフィクション。

自分には遠いことだと思うかもしれませんが、読んでおいた方がよい一冊ではないでしょうか。

◆今日の一冊 『大切なひとのためにできることがんと闘った家族の物語』 (清宮礼子/著 文芸社/刊)

◆著者について 明治大学文学部卒業後、2004年、松竹株式会社映画宣伝部に入社。宣伝担当として数々の映画をヒットに導いてきた方です。 2008年には“納棺師”を主人公とした作品「おくりびと」を担当されました。

突然やってくる病魔

本書は、ある家族における、がんの闘病生活について書かれた本です。

著者である清宮礼子(せいみや・あやこ)さんは松竹株式会社に所属し、映画のプロモーション担当として、『おくりびと』(2008年)など多くの作品をヒットに導いてこられました。

『おくりびと』が世に発したメッセージ、“人は誰でも、いつか、おくりびと、おくられびと”に多くの人が死について考えさせられましたが、奇しくも清宮さん自身が“おくりびと”となり、実父の最期を看取り、その軌跡をこの度一冊の本に認めることとなりました。

清宮さんは本書の冒頭でこのように語っています。

最愛の人がもしがんになったら、あなたはどう向き合いますか?

尊い人の受け入れ難い命の期限を知り、いつか来る“さようなら”の日までどう向き合っていくべきか。 (中略) 人の尊い命とがんとの向き合い方や、最善の治療法をどう選ぶか、残りの時間をどう大切に過ごしていくべきかなどを考えるための指針になれば大変幸いです。

「がん」という病魔は、ある日突然やってきます。清宮さんの場合もそうでした。

ある日お父さんが、「最近ひどく疲れるんだよな〜」と言って変な咳が続いていたので、病院に連れて行って精密な検査をしてみると、「肺がん」であることが発覚したのです。

しかも、進行のステージは、「?B期」という、すでに手術することさえかなわない末期まできてしまっていました。

あなたが同じような状況になってしまったら、どうすると思いますか?

入院先の手配、家族・親戚への連絡、費用の工面、仕事だって今までと同じようにこなし続けなければなりません。

それに、主治医の先生と治療方針の打ち合わせもします。

投薬なのか手術なのか、薬ならどんな薬を使うのか、手術なら術式はどうするのかなど、これらは家族が説明を受けて判断し、書類にサインをしなければ前に進んでいかないのです。

ただでさえショックで混乱している時期に、これから人生を左右する決断を何度も迫られる状況を想像できますか。

本書は、闘病記にありがちな、感情が表に出すぎた文体に引いてしまうこともなく冷静に客観的に書かれた(こういういい方は極めて微妙ですが)“有用な一冊”に仕上がっています。

25歳を越えたあたりで出会っておきたい一冊と言えるのではないでしょうか。

セカンドオピニオンは、“最初から”受けた方がいい

清宮さんは、治療を始める前に少しでも多くの知識を取り入れておくことが大切だといいます。

そうすることによって主治医の先生がする話への理解も深まりますし、提案された治療方針を家族で検討することもできます。

ここで、「分子標的薬イレッサ投薬の検討」という一節をご紹介しましょう。

私は、抗がん剤治療を続けるほかに、本当に違う方法はないのかと、日々あらゆる情報を調べました。

これ以上抗がん剤を続けることは父の体力を奪ってしまうだけだと思っていた時期、病院の事情で主治医の先生が転院されることになり、担当医が変わることになりました。

早速、新しい主治医に今後の治療方法を相談したところ、イレッサという薬を使う治療を提案されました。

点滴で行う標準治療で定められた抗がん剤が、がん細胞自体を攻撃するのに対し、イレッサはがんの増殖などに関係する特定の分子を狙い撃ちする、「分子標的治療薬」と呼ばれる薬の一種で、主に肺がん治療に用いられます。

この薬ももちろん副作用の問題があり、二〇〇二年に登場したばかりの時は、通常の抗がん剤よりも遥かに重大で致命的な副作用を起し患者が死亡したとして、一時裁判沙汰になるケースも多発したほどでした。

そして、いまだに未知な薬であり、使用に関しては賛否両論、多様な考え方が存在します。

ただ、適応が認められる患者には、従来の抗がん剤よりも奏効率(治療の実施後にがんが縮小したり消滅したりする患者の割合のこと)が高かったという実例もあり、画期的な抗がん剤として話題を呼び、治療に取り入れる医者が増えています。

特に肺がん剤として話題を呼び、治療に取り入れる医者が増えています。特に肺がんの中でも、父のような非小細胞肺がんの“線がん”という種類に効果的であると言われています。

私は最初の主治医にイレッサ使用について相談したことがありました。

しかしその時は、まず標準治療の抗がん剤を投与することがベストだと判断されました。

ただ、後任の主治医は、最初からイレッサという選択肢もありえたと言うのです。

ここで私は気付かされました。

主治医によって、選択する治療がこんなにも違うのかと。

そして、セカンドオピニオンの重要性について、深く考えさせられました。 (P63〜64より抜粋)

清宮さんは、“セカンドオピニオンはためらわずにファースト治療から受けたほうがいい”と言います。

がん治療には、主治医によってさまざまな見方・考え方があるからです。

早期治療が良いのはそうなのですが、急いてしまい適当でない治療で無駄に体力を奪われ、治療が困難になってしまうことだってあるのです。

まとめ

がん治療をめぐる、家族の心構え、医師とのやりとり、セカンドオピニオン、新薬「イレッサ」にまつわる体験と知識などについて、かなり詳細まで踏み込んで書かれています。

体験記を交えながらも、ていねいで客観的な文章が読みやすく、おすすめです。

清宮さんのお父さんは、肺がん発覚時点で、「?B期」という、手術さえできないステージではありましたが、闘病に立ち向かう気力も体力もあったため、寛解に向けた治療を行っていきます。

しかし、やはり最期は緩和ケアへの切り替えの決断がなされます。

そういった心の動きなどにも感情移入してしまい、一気に読んでしまいました。

大切なひとのためにできること がんと闘った家族の物語

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最愛の人がもしがんになったら、あなたはどう向き合いますか? 本書は、「がん」という病魔に家族で立ち向かった闘病記。がん治療をめぐる、家族の心構え、医師とのやりとり、セカンドオピニオン、新薬「イレッサ」にまつわる体験談、知識などについて詳細に書かれています。体験記を交えながらも、ていねいで客観的な文章が読みやすく、おすすめです。