新刊ラジオ第1564回 「わっ!へんな虫〜探検昆虫学者の珍虫ファイル」
本書は、探検昆虫学者の西田賢司さんが、コスタリカの森林において出会った“ヘンな虫”を紹介しながら、自然環境の生態系などについて解説されています。カラー写真も豊富に掲載されており、その珍しさに思わず心を掴まれます。また、ハワイの外来侵入植物対策プロジェクトを元に語られる、探検昆虫学者の使命や地球環境についての話も興味深く、面白くて学べる一冊です。
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
概要
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
虫って、あなたは平気な方ですか?
子ども頃はよく獲っていたけど、大人になったらダメになった〜!という方も多いと 思います。
どこかで聞いた話ですが、虫って色んな種類がいるし、我々哺乳類とは全然違う 形をしているので、未知なものに対する本能的な恐怖が、虫を怖がらせているそうです。
普段から身近に虫がいる人はあまり虫を怖がらないといいますが、そういえば、 僕も最近、虫を見る機会が減ったので、すこし怖いかもしれません(笑)
だから最近の子どもは(特に都会育ちの子は)、虫を見る機会が減っているし、 虫を怖がったりするのかな〜なんてと思っていましたが、、、、 数年前『ムシキング』というアニメが流行しましたね。 やっぱり子どもは虫が好きなのかもしれません。
さて、今日は「虫」について注目した本をご紹介します。
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◆今日の一冊
『わっ!へんな虫〜探検昆虫学者の珍虫ファイル』 (西田賢司/著 徳間書店/刊)
◆著者について
西田賢司さんは15歳の頃からアメリカで生物学を学び、国立コスタリカ大学において昆虫学で修士号を修得した探検昆虫学者の方です。現在もコスタリカを拠点に活動し、米国政府のハワイ州の外来侵入植物対策プロジェクトに参画するなど、国際的に活躍されている方です。
お腹の肉の中で蚊を育てる?!
探検昆虫学者とは、生物的防除のために、天敵となる昆虫を探す昆虫学者に授けられた呼び名です。
生物的防除というのは、ある生態系にヒトの手によって入ってきた外来植物が、現地の生態系によくない影響を与えているときに自然に近い形でバランスを取るための手 段です。
外来植物の天敵となる虫を放して生態系のバランスを取るわけですが、その虫を探して生活などを研究するのが、探検昆虫学者のお仕事ですね。
本書は、そんな探検昆虫学者である西田賢司さんが、コスタリカの密林で出合った虫たちの紹介や、生態系を解説したカラー写真満載の一冊となっています。
日本の7分の1以下の国土面積のコスタリカには、地球上の生き物の5%が生息しているといわれています。
これほど小さな面積に多種多様な生物があふれている国は世界でも珍しく、たいへん研究しがいのある国なのだそうです。
そんな中でであった虫たちの話が読める本書ですが、さっそく本の中から一節をとりあげてご紹介しましょう。
自宅でいつものように痒いところを気持ちよくかいていました。
という一文からはじまる節です。
・・・やっぱり虫の研究というと刺されたり噛まれたりしているのですね(^^;)
なんでも、痒みのある2箇所の腫れが1週間経っても収まらず、それどころか大きくなって赤みも増してきていることに気づいたそうです。
一箇所は左腕の手首のところ。
もう一箇所はおへその横辺り。
2週間を過ぎたころに盛り上がった患部をよく見てみると、中央に小さな穴が開いていたそうです。
穴からは液がにじみ出て、少しぐしゅぐしゅした感じ。
化膿してきたのかな? なんて思いながら、その穴を覗いていると・・・
何かが穴を出入りする様子が見えました(キャー!)。
大学の先生に見せてみると、それは「ヒトヒフバエ」という蝿の幼虫ということがわかり、そこから西田さんによる、西田さんの左腕とお腹の肉の中での飼育と観察の日々がはじまったのです……。
ちょっと驚いてしまったレポートでした。。
ヒトヒフバエは俊敏な動きで、飛んでいる蚊に卵を産みつけるのだそうです。
そして卵を産み付けられた蚊が、ヒトの血を吸っている間に、ヒトヒフバエの幼虫が孵化して、ヒトの皮膚の中にもぐりこみ、寄生が始まるそうなんです。
虫が苦手な方にとっては鳥肌の立つようなお話ですね…(笑)
本書の続きでは、ヒトヒフバエが西田さんのお腹の中でうごめく様子や、栄養をとって丸々太り、お腹の中から出てくる様子までがレポートされています。
お腹に開いた穴や、その穴を出入りするヒトヒフバエの幼虫の写真なども掲載されていますので、興味のある方はぜひ見て欲しいです。
以上、「ヒトヒフバエを自分の体で飼育」という一節より、ご紹介しました。
全章の読みどころをチェック
本書は、全4章構成になっています。少しずつさらってご紹介していきましょう。
1章 コスタリカの「ヘンな」虫たち 全世界に1000万種類以上とも言われている、“ヘンな”虫たちの特徴や生態系などを写真付きで解説した章です。解説もテンポよく驚きも学びもあり、図鑑のように楽しく読めます。
2章 「虫こぶ」の未知なる世界 植物の内部に虫が入り込んでコントロールし、幼虫が育ちやすいこぶのような植物の壁をこしらえたものが「虫こぶ」です。すごくきれいで、そういう花かつぼみのように見えるくらいなのですが、この「虫こぶ」には、虫の生存に関わる価値があるのです。
3章 「バッグマン」と呼ばれる探検昆虫学者 「バッグマン」とは、調査に行く際の西田さんの風貌を見て、誰かが呼んだあだ名だそうですが、危険と隣合わせのコスタリカの森林での調査においては、それなりの防備が必要なわけです。この章では、コスタリカ森林での調査中のエピソードが書かれています。
4章 昆虫たちが教えてくれる未来の地球 西田さんが参画しているハワイ州の外来侵入植物対策プロジェクトの話や、“探検昆虫学者”としての考えに触れることができる章です。ある意味、ここが一番の読みどころかもしれませんが、1〜3章で、色々な虫を見て、知って、自然や生態系について少しだけ自分で考えてから、読んでみることをおすすめします。
探検昆虫学者としての仕事
続いて、「ハワイの生物的防除作戦」について一部をご紹介しましょう。 音声版では朗読していますよ〜。
外来種が持ち込まれたことで、その土地固有の生態系が大きく崩れるという問題をよく耳にします。その問題が世界中でもっとも深刻なのがハワイです。
太平洋の大海原に隔離されてでき上がったハワイの生態系で、もともと活動していた動植物のほぼ100パーセントがハワイ諸島だけに生息する固有種だったのですが、現在その割合は50%以下になってしまいました。
多種多様な外来種がハワイに持ち込まれ、外来種の割合が増えていっているのです。
ハワイ固有の先住生物が追いやられ、すみかを奪われ、絶滅したもの、絶滅が危惧されているものも少なくありません。
10年ほど前にハワイ島にあるアメリカ合衆国の林務局から「ある植物の生物的防除のプロジェクトに参加してほしい」という依頼がありました。
現在も調査が続いています。
ノボタンの仲間の「ミコニア・カルベセンス」とケシの仲間の「ボコニア・フルテセンス」。kの2種の植物は、中南米の熱帯がもともとの生息地でしたが、観葉植物としてタヒチ、そしてハワイに持ち込まれてしまいました。
現在ハワイ諸島の生態系を脅かすまでに分布や勢力が広がっています。
林務局はそういった植物を「侵入植物」として登録し、防除対象にしています。
生物的防除というのは、生き物を使って他の生き物の増殖を抑えることです。
侵入植物の場合、侵入植物だけを食べる昆虫や、その植物の成長を阻害する菌類や他の生き物を導入して植物を弱らせて、できるだけ花を咲かせないようにして、実やタネの数を減らします。
■ まとめ 夏休みですから、お子さんに買い与えたり一緒に読んでみたりするのにも良いと思います。
本当に“ヘンな虫”ばかりなので、好奇心をくすぐられて楽しめると思います。
大人の方は、探検昆虫学者という仕事について知って、僕らが住んでいる地球環境や生態系について考えてみるのも良いと思いますよ。
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