だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1550回 「しつもん仕事術」

“良い質問”と“悪い質問”の仕方があることをご存知でしたか?良い質問は、見えないものを見えるようにする気づきを生む質問。悪い質問は、自己防衛本能を刺激してしまい思考停止に陥らせる質問。チームや部下の成長速度は、質問の仕方一つで、格段に差が出ます。これからのリーダー・マネジメントの必須スキル“しつもん仕事術”をぜひ手にして下さい。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

みなさん、“上司と部下の関係”うまくいっていますか?

ゆとり世代と呼ばれる人たちが入社してきて、あまりのマイペースさに 戸惑ってしまったり、世代的なギャップを感じることもあるかもしれません。

僕は最近、ゆとり世代に対しては認識を改めまして、彼らは彼らで面白いし、 強みもありそうだなーと思っていますが、皆さんはどうでしょうか?

今日取り上げる本は、“質問力”の本なんですが、わからないことを尋ねる質問 ではなく、上司が部下にする質問です。

あれ? と思った方は、この本のターゲットかもしれません〜。

***

◆今日の一冊 『しつもん仕事術』 (松田充弘/著 日経BP社/刊)

◆この本をひと言でまとめると 「部下やチームを強くする“質問の力”を身につけるための本

◆著者について

松田充弘さんは、しつもん経営研究所代表。“質問家”という肩書きで活動されている コンサルタントの方です。質問家というのは、“人と会って質問し、その人が最良の 答えを得るための手助けを行う仕事”のことだそうです。日本メンタルヘルス協会の 公認カウンセラーでもありますから、質問家としての活動のベースには、カウセリング やコーチングの理論があるのだと思います。

ビジネス上の質問とは何か?

本書は、“ビジネスの上で役立つ質問の仕方”をまとめた内容です。

質問というと、“知らないものを知っている人に尋ねる”ということを思い浮かべると 思いますが、この本で語られているのはその質問ではありません。チームリーダーや 管理職といった、上の立場にいる者が部下に対して質問を行い、気づきを与えたり、 見えないものを見えるように誘導するというものです。

もちろん単に質問をすれば良いということではなく、良い質問の仕方、悪い質問の仕方 というものがあります。それが本書で語られているわけですが。

まず良い質問とは、それに答えることで成長のための気づきを得ることができるもの です。仕事をする上で何か問題が発生しそうなときに、「これはこうしなさい」と指示 をすることは簡単ですが、それだと指示された方はどうしても“業務遂行型”という、 受身でやらされている感が出てきてしまいます。しかし、そこで敢えて質問する形で 問題に気づかせることで、自分ごととして捉え、当事者を持たせることができるわけです。

※ちなみに、日産自動車を建て直したカルロス・ゴーンは、就任してすぐ現場に足を 運んで、(原価はどうだとか、稼働率はどうだとか)すでに問題だと認識していること でも敢えて現場の人間に質問することで、業務改善を上からのパワーではなく、 現場でも共有されている問題点として解決に向かわせることで成果を出しました。

逆に悪い質問は、それに答えていくと不安や嫉妬心などが膨らんで、物事を冷静に 捉えることができなくなったり自分を追い込んでしまうといった類のものです。 後ろ向きな答えしかでないような質問に答えていると、自己防衛本能が働いて、 できないことへの言い訳や、環境に責任をなすり付ける答えばかりが浮かんで、 思考停止に陥ってしまう可能性があるわけです。

ですから、“正しい質問の仕方”を身につけなければならないわけです。 間違った質問を続けていると、良い方向に向かうどころか、逆効果でどんどん 悪い方向にすすんでしまいます。それくらい、質問には力があるということを、 まず頭に入れておいてください。

上司と部下の問答

※新製品発売キャンペーン開始 2週間前

上司 「いよいよ新製品の発売キャンペーンが始まるぞ!  あと2週間、しっかり準備を頼むぞ! 絶対に成功させような!」

部下 「は、はい」(この人、いつも勢いだけはいいんだよな)

上司 「なんだ、元気ないな! そうか、君は大型キャンペーンは初めてか。  大変だけどやりがいも大きい。頑張ろう!」

部下 「そ、そうですね」(掛け声だけで、何もしてくれそうにないけど)

上司 「なんだ、声が小さいぞ。大丈夫?」

部下 「……大丈夫です」(大丈夫じゃないって言ったら、怒られるから、こう言うしかないよな。 心配ごとは山ほどあるけど)

※キャンペーン開始3日前

上司 「よーし、本番が近づいてきたぞ!  そういえば、例のパンフレット、会場に何時に届くことになっている?」

部下 「それなんですが……」(やっべー、一番聞かれたくないことを聞いてきた。どうしよう)

上司 「えっ、どうかしたのか?」

部下 「修正が多くて、印刷所に入れるのが遅れてしまって……。  当日の午前中には間に合うと思うのですが……」(俺だけのせいじゃないんだけどなぁ)

上司 「おいおい、もし遅れたらどうするんだ! 逆算して、いつまでに何をしなきゃいけないかを  きっちり決めて厳守しろと、俺はアドバイスしたよな?」

部下 「……すみません」(言われなくても、そんなことはわかってるよ!)

上司 「配る資料がなければ格好つかないぞ! 印刷所は何と言っているんだ!」

部下 「……」(言い訳すると怒られるから、黙っていよう)

上司 「現状がわからなければ、手の打ちようがないだろう? 何でこんなことになったんだ?」

部下 「…………」

上司 「黙っていたらわからないだろう?」

部下 「……連絡を取ってみます」(連絡しても「わからない」って言われるだろうな。 でも、こう答えれば、この場は収まりそうだな)

上司 「物事のすべては『やるか? やらないか?』だろう?  君はどっちなんだ。やるのか、やらないのか?」

部下 「やります……」(出たよ、いつもの、わけのわからない説教)

上司 「そうだろ! 頑張ろうな!」

解説&まとめ

いかがでしたか? 部下のモノローグは、著者の松田さんが想像して作ったものだそう ですが、妙にリアルでしたね…(笑) あなたの周りには、こんな上司いませんか? 部下のリアクションからも分かるとおり、この上司の質問は悪い質問ですね。 本書では、今の会話にツッコミを入れる形で問題点と改善点を指摘していきます。

たとえば、ここ。 上司 「物事のすべては『やるか? やらないか?』だろう?  君はどっちなんだ。やるのか、やらないのか?」

部下 「やります……」(出たよ、いつもの、わけのわからない説教) まさかこの2択に、「やらないです」と答える部下はいませんよね。 これは、2択のようで2択ではないのです。

もうひとつ、Aさんと部下が同じ方向を向いていないという点が指摘されています。 新製品のキャンペーンを成功させるという共通の目標があるはずなのに、 どうも温度差があります。これではいけません。

プロジェクトを始めるときは次のことを抑えておかなければなりません。 ?なぜ・何のためにやるのか、理由と目的を明確にする。 ?終わったときどうなっていたらいいのか、成果を明らかにする。 ?その成果を上げるために、誰がいつまでに何をすればいいのか  役割を明確にして、メンバー全員の共通認識を取る。

共通認識というのは、他人ごとではなく、自分ごととして理解することです。

さて、ここまでを踏まえて、先ほどのような状況で上司がするべきだった質問は、

「今回の新製品発売キャンペーンは、なぜ・何のために行うのか確認しておこうか」

「今回のキャンペーンのゴールはどこだろう。終わったときにどういう状態に  なっていたら 最高だと思う?」

「じゃあ、目的達成のためには、いつまでに誰が何をする必要があるかな。  分担を確認しておこう!」

こういうことだったんじゃないでしょうか。

さて、まだまだ上司の質問にはツッコミ所がたくさんあったことに気づいている方は たくさんいると思いますが、続きはぜひ本書で確認してみてください。

部下に自信を付けさせる質問、不安を解消する質問、問題発見力を養う質問、解決思考 に導く質問などなど、多面的に指摘されています。

非常にリアルで面白いですから、「部下に自分の思いが伝わらない」「どうもやる気が 感じられない」というようなことを思っている上司の方は読んでみてください。

そうか、若者はこういうことを考えていたのか!と、発見があるかもしれません。

■ まとめ 本書では、質問のプロである著者から100種類の質問が出され、それに対するヒントや 回答例で構成されています。ですから、これに答えていくだけでも色々な発見は見つか ると思いますし、良い質問の空気感というものはつかめると思います。

注意して欲しい点としては、本書で語られている内容はコーチングがベースとなってい るので、ノウハウだけを抜き出そうとすると失敗してしまいます。質問は、発する言葉 は同じでも、どんな人が言うかによって効果が変わります。

ですから、テクニックだけを身につけても質問の効果を得ることはできないわけです。 この本で言えば第1章に書かれていることですが、質問を発する側が持つべきマインド とはどのようなものなのかということをしっかり踏まえた上で、実践していって欲しい と思います。

しつもん仕事術

しつもん仕事術

しつもん仕事術

“良い質問”と“悪い質問”の仕方があることをご存知でしたか?良い質問は、見えないものを見えるようにする気づきを生む質問。悪い質問は、自己防衛本能を刺激してしまい思考停止に陥らせる質問。チームや部下の成長速度は、質問の仕方一つで、格段に差が出ます。これからのリーダー・マネジメントの必須スキル“しつもん仕事術”をぜひ手にして下さい。