新刊ラジオ第1529回 「リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」
事業開始から、短期間で急成長を遂げた企業の成功法則「リーン・スタートアップ」。これは起業時のムダを徹底的に排除し、事業を進めながら顧客を開発していく、成功確度の高い経営の方法論です。本書では、リーン・スタートアップ5つ原則と、その活用方法について解説されています。起業家だけでなく、サービスの立上げに関わる“アントレプレナー”には、今必読の書です。
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概要
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
前回ご紹介した『小さく賭けろ』が評判です。僕の周りでも読んだという声が多く、 こういう本がよく読まれることは嬉しいものですね。この本を読んで、起業家を 目指そうと思った方がいたら、この本もぜひ読んで下さいとオススメしたいのが、 今回取り上げた本です。
起業と言うと「ベンチャー企業の9割以上は1年以内に潰れる」と聞きますが、 やはり、スタートアップが重要なのではないでしょうか。
ということで、今回はシリコンバレーで話題となった『リーン・スタートアップ』 をご紹介してまいりましょう。
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◆今日の一冊 『リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』 (エリック・リース/著 日経BP社/刊)
◆この本をひと言でまとめると 「スタートアップから垂直成長させるマネジメント」
◆著者について エリック・リースは著名な起業家で、ソーシャルサービス「IMVU(インビュー)」 に、共同創業者 兼CTO(最高技術責任者)として参画した方です。現在は、様々 なスタートアップや大企業、ベンチャーキャピタルに対して、事業戦略や製品 戦略のアドバイスをされているそうです。 また、今回の本のテーマでもある「リーン・スタートアップ」について書かれた ブログ「Startup Lessons Learned(訳:スタートアップの教訓)」の執筆者でも あります。
誤った問いを設定していないか?
まずこの本で、エリック・リースがリスクだと指摘しているのは、「誤った問い を設定していないか」ということです。既に知られている市場調査などのノウハウ を使えば、売り出したい製品を、(成功の)確度が高いディティールに近づけて いくことはできますが、もしこれが誤りだった場合、そこまでにかけた「人」 「お金」「時間」などが無駄になってしまいます。
仮に「誤った問い」が設定されていて、しかもそれに気づかずに事業を進めて いってしまうと「失敗に向かって予定通りに事業を進め」「失敗を達成してしまう」 というなんとも可笑しなことになるわけです。
エリック・リースは、このムダを排除し、スタートアップを成功させるための ノウハウとして、「リーン・スタートアップ」を推奨しています。リーン・ スタートアップの「Lean」という言葉は、「起業時にムダを徹底的に排除し」 「事業を進めながら発見し」「顧客を開発していく」ということを表しています。 (トヨタのリーン生産方式から来ているようですね)。
つまり、推定や市場調査から得た情報だけを頼りに、製品の細部のディティールに まで凝るのはリスクである。ゆえに、まずは最低限の機能だけを設備したβ版で いいから市場にだすべきだ、ということを言ってるんですね。
そうすれば「実際に売出そうとしている製品」に対して「実顧客からのフィード バック」が得られるので、その情報をもとに、成果の上がるなおかつ持続可能な 製品に近づけていくことができるのです。この方法のほうが、より良い製品、 つまり、目指すべき完成形を、より早く見つけることができるということなのです。
すこし長くなりましたが、「リーン・スタートアップ」の肝となる考え方はこう いったことです。製品の改良ノウハウのようにも聞こえますが、これはマネジメント のひとつです。
エリック・リースがCTO(最高技術責任者)という立場にあって、もともとは “技術屋さん”であることも相まって、技術的な面が書き方に強く出たのかもし れません。しかし、エリック・リースは、経営にも深く関わってきて、失敗も 経験してきていますから、もちろんそれだけではありません。
<リーン・スタートアップの5原則> 1.アントレプレナーはあらゆるところにいる 2.起業とはマネジメントである 3.検証による学び 4.構築―計測―学習 5.革新会計(イノベーションアカウンティング)
「リーン・スタートアップ」を成功するための5原則について、「ビジョン」 「舵取り」「スピードアップ」という3部構成で説明されています。
詳しくは本書を参照してみて下さい(この部分は18ページ〜です)。
米国グルーポンの失敗と方向転換
それでは少し具体的な事例をご紹介しようと思います。 「リーン・スタートアップ」におけるコンセプトの中に、「MVP」というものが あります。これが非常にシンプルでわかりやすく、かつ大事なコンセプトなので ご紹介しましょう。
「MVP」とは、“Minimum Viable Product” 実用最小限の製品のことです。 Grouponという米国にある企業の成長を例に上げてお話したいと思いますが、 みなさん会社と同名の「グルーポン」というサービスはご存知ですか? 共同購入型のクーポンサイトなんですが、このサイトを介せば、レストランの 食事やエステなどのサービスを安く受けられることで人気を博しました。
インターネットインフラと共同購入を組み合わせた非常に優れた アイデア=イノベーションだったわけですが、企業としてのGrouponは、もともと 商取引を目的とした会社ではなかったんです。
当初は、社会運動の資金集めや販売店のボイコットなど、ひとりでは解決困難な 課題に立ち向かえるようなプラットフォームを提供するサービスを考えていた そうなんです(集団的活動のプラットフォーム「ザ・ポイント」というサービス だったそうです)。
しかし、思うような結果が出せず、他のことをやってみることにしました。 そうして作られたのが、MVP(実用最小限の製品)、クーポンの共同購入サービス 「グルーポン」だったわけです。サービス開設当初は、専用ブログを立ち上げて、 「このTシャツを買いたい人いますか? 色違いが欲しい方はその旨を電子メールに 書いて送ってください」というエントリーを毎日更新するという、メールフォームも ない急ごしらえの仕様だったようですが、それでもコンセプトはユーザーに伝わり、 人気が見込めるものとわかりました。 後にこのサービスは、史場最速で、10億ドル事業に成長を遂げています。
MVPを実践する上で大切なのは、客寄せでも、収益化でもなく、 「学びのプロセスに入る」ことです。長い時間をかけて完璧な製品を作っても、 それがユーザーに受け入れられなかった場合、コストになってしまいます。
ですから一刻も早く「学びのプロセス」に入って、「構築―計測―学習」を繰り 返し、まずは基礎となる事業仮説を検証することが重要なんです。
それを低コストで、少ない労力で実現できるのが、MVPのコンセプトというわけです。
成功の秘訣は早くシンプルに
MVPと一口に言っても、その出来栄えは様々だそうですが、“実用最小限”の製品 として考えると、できるだけシンプルにするべきだとエリック・リースは注意を呼び かけています。なぜなら、往々にして起業家は、MVPに必要だと考える機能を多く 見積もりがちで、それがムダに繋がるからだということです。
本書の続きでは、ドロップボックスや、フード・オンザ・テーブルなど、具体的な 企業の成長を例にあげながら解説がされていますので参考にしてみてください。
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■ まとめ 一見すると非常識に思える理論もあるのですが、実際、IMVU(インビュー) を始め、 本書に登場する数々の成功した起業家たちは、「リーン・スタートアップ」の原則に 叶った方法でスタートアップを切っています。
また、「イノベーションを継続的に生み出せるアプローチ」という意味では、 小規模なベンチャーばかりでなく、あらゆるサイズの企業で活用可能なノウハウに なっています。
ごく一部しか紹介できませんでしたが、エリック・リースがCTOということもあって、 IT企業の起業に興味のある開発者の方、そして起業家を目指す方には文句なしで オススメです。起業を目指している学生さんなんかも、もしかしたらまだちょっと 腹落ちしないところも多いかもしれませんが、挑戦してみてもいいのではないでしょうか。
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