だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1452回 「死に向きあって生きる―ホスピスと出会い看護につとめた日々」

あなたは「ホスピス」を知っていますか? それは、治癒を目的とした積極的な治療を中止し、緩和ケアを中心に行う医療です。そして、患者に残された時間を充実した生活=QOL(Quality of Life)の高い生活を送るためのサポートをするものです。本書は、長年、訪問看護、「ホスピス」の普及につとめてきた看護師が書いた“医療現場の真実”を映す、貴重な一冊です。

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治癒が望めない患者への医療

●著者プロフィール 季羽 倭文子(きば・しずこ)さんは、1930年福島県生まれ。国立岡山病院附属高等看護学院を卒業し、国立岡山病院、聖路加(せいろか)国際病院で看護師として勤務、看護教育にもたずさわってきました。 1973〜75年のイギリスへの留学中に、「訪問看護」と「ホスピス」に出会い、帰国後は、日本での訪問看護とホスピスの普及に努め、1981〜87年日本看護協会常任理事。現在、ホスピスケア研究会顧問活動としてされています。

● 概要 あなたは「ホスピス」をご存知ですか? 「緩和医療」「終末期ケア」といった名称でご存知の方もいるかもしれませんが、 一般病棟で行われる、「(現在は主に)がんを治す目的の積極的な治療」を中止し、緩和ケアを中心に行う医療のことです。

こう聞くと、「もしかして医療に見捨てられた人が行くところ?」「死を宣告された?」と、感じられてしまうかもしれませんが……。実際、著者の季羽さんも、「ホスピス=死を迎えるために行くところ」と誤解されることが多いと、本の中で書かれていました。

しかし、そうではないのです。

「ホスピス」は、がんの治癒が望めなくなった人々を「見放さない」「見捨てない」ための医療なんです。どういうことかというと、がんを治癒するための“積極的な治療”によって、強い副作用などで体力を消耗するよりも、苦痛を和らげることを中心にした“緩和ケア”を行い、そうすることで食欲を取り戻し、体力をつけて、より充実した日々を過ごせるようにサポートする。これがホスピスで行われていることなんだそうです。

末期がん患者が求める生活とは?

本の中には、「がんが進行した患者が求めている生活」が書かれています。

○なによりも、苦痛な症状が、適切な薬剤の投与やその他の方法で緩和されること。 ○食べたい時間に、自分の好む温かい食事が美味しく食べられること。 ○夜は静かな環境で、寝心地のよい、好みの色や模様の寝具に包まれて、十分  睡眠がとれること。 ○やさしい心のこもった世話や、思いやりがある楽しい会話があること。 ○心を癒す手段(音楽、読書、テレビ、DVDでの映画鑑賞、散歩など)があること。 ○心の中に抱いている悩みや精神的な苦痛に、カウンセラーや精神科医、時には 宗教家のサポートが得られること。 ○家族との面会時間など、各種の規則や時間の束縛の少ない暮らし。

……これを聞いて、あなたはどのように思いましたか? どれも、生活のとても基本的なことなんですよね。「最期だから贅沢したい」なんていうことはなく、患者たちは、“普通に”過ごすことを求めているのです。

ホスピスの医療現場では、こうした患者の思いを汲み取って、残された時間で充実した生活を過ごすためのサポート = QOL(Quality of Life)が高い生活を送れるようにサポートしているのです。

ホスピスの驚くべき本質

ここで本の中から、ホスピスの本質的な部分を捉えた一節をご紹介したいと思います。 これから紹介するのは、季羽倭文子さんがイギリス留学した際、ホスピスを案内してくれたリチャード・ラマートン医師から、季羽さんが帰国後にもらったという『Care of the Dying』(死を迎えようとしている人のケア)にあった内容です。

症状が進み、病気を治すことが望めない状態になった段階では、医療は、苦痛な症状を緩和することが中心になります。しかし、病気を治すための治療を中止し、苦痛緩和だけを行うという医療方針の方向転換は、医師や看護婦などの医療関係者にとって、迷いや痛みを感じるものなのです。

ほんとうにそれでよいのか、まだ何かできることがあるのではないか――。 そのような局面での考え方や対処方法のひとつとして、ラマートン医師は本の中で次のように紹介しています。

がんの症状が進行したときに、大きい血管が破れて大量出血することがあります。 この出血が致命的になるかもしれないということは、訓練を受けた看護師なら、直感的に判断できるでしょう。 そのようなときに理性的な判断をすることはとても難しく、医師や看護師は、すぐに止血しなければならないと、急いで慌しく動き回りたい衝動にかられるでしょう。しかし、そのとき、もしいま止血できたとしても、再び大出血を起し、やがては死に至ることを思い起こせるのなら、いま、患者がもっとも必要としていることは何かを考えて、適切な対応を取る必要があります。

ホスピスの驚くべき本質(2)

そのとき、患者がもっとも必要としているのは、『すがりつける人がほしい』ということです。ホスピス、あるいは病院によっては、このような場合に備えて『真っ赤な毛布』をナースステーションの棚に備えています。その毛布を取ってきて患者の身体を覆うことで、真っ白なシーツの上に広がった赤い出血の色を目立たないようにできます。

赤い色は、患者に恐怖心を抱かせ、一層不安な気持ちにさせてしまいます。看護師は、赤い毛布の上から患者をしっかりと抱きしめ、意識がなくなるまでそばに留まり『私はあなたのそばにずっといますよ』と、耳元でささやき続けましょう。聴覚は最期まで残ります。患者にはその声が聞こえ、不安を和らげることができるでしょう。」 (本書、P25〜26より抜粋)

ホスピスケアの考え方が何たるかということを示した一節だと思います。

患者の安楽をはかることに向かって努力をするときの「医療の方向転換」においては、医師は苦しい思いをたくさんするのでしょう。「命の限界」を認識した上で、「何をするべきか」行動の選択をするのでしょう。

元ホスピスについて知りたくて読む方もいらっしゃると思いますが、中には、今現在、ご家庭にがん患者がいるという方もいるかもしれません。 もちろん、ホスピスの利用をすすめているのではありませんが、こういう医療もあるのです、ということで、ご一読してみてはいかがでしょうか?

死に向きあって生きる―ホスピスと出会い看護につとめた日々

黄泉坂案内人(ひとつ前の新刊ラジオを聴く)

死に向きあって生きる―ホスピスと出会い看護につとめた日々

死に向きあって生きる―ホスピスと出会い看護につとめた日々

あなたは「ホスピス」を知っていますか? それは、治癒を目的とした積極的な治療を中止し、緩和ケアを中心に行う医療です。そして、患者に残された時間を充実した生活=QOL(Quality of Life)の高い生活を送るためのサポートをするものです。本書は、長年、訪問看護、「ホスピス」の普及につとめてきた看護師が書いた“医療現場の真実”を映す、貴重な一冊です。