新刊ラジオ第1439回 「ソーシャルメディア進化論」
1996年にエイベック研究所を設立し、インターネット黎明期からオンライン・コミュニティ(=現在のソーシャルメディア)を研究してきた著者が、ソーシャルメディアの全貌を明らかにし、企業活動に必要な「企業コミュニティの収益化」を紹介、指南した一冊。これを読まずしてソーシャルメディアを語るなかれ!
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
ソーシャルメディアを理解する
ソーシャルメディアといえば、mixi やTwitter 、Facebook のような、ユーザーが情報を発信して作られていく類のメディアですが、PRを目的とした企業も多く参入していますよね。
「ソーシャルメディア進化論」(ダイヤモンド社/刊)は、ソーシャルメディアとはどのようなものか、その全貌を明らかにし、企業コミュニティといった形で、ソーシャルメディアをどのように企業活動に役立てていくか、マネタイズするにはどうすればよいかということを論じています。
● 著者プロフィール 武田隆さんは、1974年千葉県生まれ。日本大学芸術学部在学中の1996年にインターネットを研究する「エイベック研究所」を立ち上げ、その後、企業のウェブサイト制作を足掛かりにビジネスを拡大。2000年にはコミュニティ・マーケティングを提供する会社として同研究所を株式会社化し、以降は同社代表取締役を務めている方です。 現在は、ソーシャルメディア・コンサルティングの分野で活躍されています。
武田さんはソーシャルメディアを分類するにあたって2つの軸を用意しています。 ひとつは、「何を拠り所にユーザーがつながるか」という軸。 もうひとつは「ユーザーが求めるものは何か」という軸です。
次のページから、それぞれについて解説していきます。
1、集まっているユーザーはどんな人たち?
ひとつめの「何を拠り所にユーザーがつながるか」については、初期の頃のmixiの例が特徴的で分かりやすいです。 初期のmixiは招待制だったので、マイミク欄には現実生活における知人が多数を占めていましたね。そうして、mixi内で友達の友達と知り合ったり、仕事やプライベートで初めて会った人がmixiをやっていると聞いてマイミク申請をしたり・・・と、ユーザー同士が繋がる拠り所は「現実生活」にありました。
Facebookやtwitterも似たようなところがあり、こういったソーシャルメディアを武田さんは「現実生活」のソーシャルメディアと分類しています。この「現実生活」のソーシャルメディアは、参加ユーザー個人が特定しやすく、実名性が高いのも特徴です。
一方で、「ヤフー掲示板」や「2ちゃんねる」などは、実際の知人を探すのではなく、ユーザーは求める情報を探す形でつながっていくソーシャルメディアです。サッカーについて、健康について、といった細分化されたテーマの中から自分の好きなものを選んでつながっていくイメージです。
また、オンラインゲームなども、「そのゲームで遊びたい人」が集まるメディアであり、こちらは「価値観」のソーシャルメディアと分類されています。この「価値観」のソーシャルメディアは、先ほどの「現実生活」のソーシャルメディアとは対極的に、匿名性の高いソーシャルメディアなのです。
2、ユーザーは何を求めてやってくる?
そして、ソーシャルメディアの分類におけるもう一つの軸 「ユーザーが求めるものは何か」について。ソーシャルメディアに集まる人には何かしらの目的があります。こちらの軸も武田さんは二つに分けて考えます。
ユーザーが求めるもの、それは「情報交換」と「関係構築」のいずれかです。 例えばwikipediaは「情報交換」を目的にユーザーが集まっています。また、さきほど出てきた「2ちゃんねる」も情報交換を求めて人が集まっているメディアと言えるでしょう。こういった「情報交換」のソーシャルメディアは、武田さんによると規模が巨大になっていく傾向があるそうです。
そういえば、2ちゃんねるもwikipediaもサーバー負荷の増大が原因で閉鎖しかけた事がありましたね。
その一方で、「関係構築」のソーシャルメディアは、規模があまり大きくならない傾向があるそうです。詳しくは本書を読んで欲しいのですが、大体参加者が20名程度までは活性化していくのですが、20名を超える規模になると、分散したり解散したりするそうです。
「関係構築」のソーシャルメディアの具体例は、mixi(のマイミク機能の部分)や、Facebook(のフレンド機能の部分)、また個人のブログなどが当てはまります。
ひとつ目の軸は、「ユーザーが何を拠り所につながるか」という軸で、「現実生活」と「価値観」に大別されました。 ふたつ目の軸は、「ユーザーが何を求めて集まるか」という軸で、「情報交換」と「関係構築」に大別されました。
このあと武田さんは、この2つの軸を使って、4象限に分かれるマトリクス図を描き、現在のソーシャルメディアを4つに分類しています。 例えば、「mixiのマイミク機能」や「Facebookのフレンド機能」は、現実生活を拠り所にしてつながり、関係構築を目的に集まるソーシャルメディア。「2ちゃんねる」や「wikipedia」は、価値観を拠り所に集まり、情報交換を目的に集まるソーシャルメディア、といった具合です。
それぞれの分類には利点もあれば欠点もあり、本書の3章で語られるこの部分は非常に興味深いです。雑学好きな方や、一般消費者としてソーシャルメディアを利用される方は、ここまででも十分満足でしょう。
3、企業がマネタイズするにはどうすれば?
本書の真髄はこの後、4章〜6章を使って説明される「企業コミュニティ」のお話です。 武田さんが本書で述べているのは「心地よい空間」であるソーシャルメディアを如何にして「収益化(マネタイズ)」するか?という点です。
ちょっとだけご紹介すると・・・。 先ほどの分類で言うと、まず、情報交換のソーシャルメディアに、企業が参入するのはかなり難しいです。なぜならば、情報交換のソーシャルメディアは、優れた情報提供をする人が評価され、冷静に客観化したふるまいが求められます。なので、ここで企業が「うちの商品を特別視して」と情報を発信しても、ユーザーには敬遠されてしまいます。
また、現実生活のソーシャルメディアも、企業が参入するのは難しい分野です。 このタイプのソーシャルメディアは、個人同士がつながり合うものなので、組織である企業は参加しづらく、またあからさまなセールストークは敬遠されてしまいます。
したがって、残るは、価値観と関係構築のソーシャルメディアとなりますね。 武田さん曰く、企業コミュニティをつくる、ということは「企業と顧客が価値観で共鳴しあう関係構築の場」をつくる、という事なんだそうです。
これ以降本書では、武田さんの経験から、様々な企業の施策を例に挙げて、効果的な企業コミュニティの作り方を説明してくれます。
理論+実例といった感じで読み物として楽しい一冊になっていますので、 ご興味のある方は読んでみて下さい。
ソーシャルメディア進化論 |