新刊ラジオ第1409回 「原発のウソ」
本書は、京都大学原子炉実験所助教が、原発や放射能に関する“誤った常識”を指摘し、本当に知るべき原発に関する知識を綴った書。福島第一原発はこれからどうなるのかの推察に始まり、原発の本当の危険性、地震大国ニッポンで原発を稼動させていることのリスク、東海地震発生時のシナリオなどを明らかにしています。
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原発の間違った常識
著者プロフィール 小出裕章さんは、1949年東京生まれ。京都大学原子炉実験所助教。 かつては原子力の平和利用を志して、1968年、東北大学工学部原子核工学科に入学しましたが、原子力のことを学ぶうちにその危険性を知り、現在は、伊方原発裁判、人形峠のウラン残土問題、JCOの臨界事故などで、放射線被害を受ける住民の側に立って活動をしている方です。
小出さんは本書の中で、福島第一原発はこれからどうなるのかという推察から始まり、原発の危険性、地震大国ニッポンで(原発を)稼動させていることのリスク、また、原発や放射能に関する“間違った常識”を指摘しています。
原発の間違った常識
原子力発電所は、「発電コストが安い」「石油など枯渇資源を使用しない」「これぞ、未来のエネルギーだ」……など、良いことばかりがうたわれて建設が進められてきました。 しかし、それらの詭弁は誤りだったことが、今回の震災以降、次々と明らかになっていっています。
原発のウソ
「発電コストが安い」
「原発の安いコスト」というのは、実は一定のモデルで算出された金額にすぎず、現実を反映していません。発電に直接要する費用に再処理などの費用、そして開発や立地に投入される国の財政支出などを合わせると、実際のコストは水力や火力より高くなってしまうのです。そのコストに、原発につきものの揚水発電が加わると、さらにコストは上がるということになります。
原発は、その特徴として、「一度運転を始めたら1年は稼働率100%でずっと発電し続ける」ものだそうです。つまり、人が寝静まって消費電力が減る夜間も止めることができません。すると、電気があまってしまいます。
そこで、このあまった電気を消費するために、「揚水発電所」が造られました。 「揚水発電所」は、原発であまった電気を使って、下の池から上の池に水をくみ上げておいて、電気をたくさん使う昼間に、上の池から下の池に水を落として発電するというものです。小さな水力発電所のようなものとイメージしてください。
この「原発」と、わざわざ造られた「揚水発電所」を使用しなければならないせいで、 およそ3割のロスがあるそうです。しかし、「揚水発電所」がないと、原発は成り立ちませんから、当然発電コストに含まれますね。 これを考えると、まっっったっく低コストではないのだといいます。
(本書112ページに、詳しくグラフ付きで掲載されています。)
「枯渇資源を使用しない」
「石油・石炭などの枯渇資源を使用しない」ということに対しても指摘がなされています。原発は、石油・石炭は使用しませんが、ウランを使用します。実は、原発に使用するウランは、石油よりも深刻な「枯渇問題」がついて回っているんです。 資源について話します。 石油も石炭も、原発に使用されるウランも、使えばなくなる「再生不能資源」です。 ですから使い続ければ、どれもいずれなくなります。 それぞれの埋蔵量を見ると・・・ 石油の可採年数は、一時はあと18年でなくなる、と言われていましたが、採掘技術の向上などで、可採年数は見直され、最新の推定数では50年といわれています。 また、石炭は、使い切るまでには1000年かかるといわれています。 一方、原発に使用される「ウラン」のは、利用できるエネルギー換算で、石油の数分の一程度で、先に枯渇するのは「ウラン」の方だと言われています。
他にも原発に関する常識のウソが指摘されています。
・大量の二酸化炭素を出す原子力産業 ・原発は、「広島原爆」80万発分の死の灰を出している。(事故発生時ではない) ・原発は、電力会社が責任をとらないシステムで運営されている ・原発を造れば造るほど儲かる電力会社
驚くようなことばかりが出てきます。 第四章「原発の“常識”は非常識」を、ぜひ読んでみて下さい。
震災発生時のシナリオ
本書には、「放射能汚染から身を守るための知識」や、いつ発生してもおかしくない といわれている、「東海地震発生時のシナリオの推察」なども綴られています。
日本は、1年間にM5以上の地震が平均約150回、M2以上の地震が平均14万回以上発生するとも言われる地震大国です。 現在、日本には54基の原発が建てられています。 福井には高速増殖炉「もんじゅ」もあります。
そんな中、今いちばん警戒しなければならないのは、東海地震です。 静岡県 御前崎市にある中部電力浜岡原子力発電所は、東海地震の想定震源域のど真ん中に建っています。 歴史を振り返れば、浜岡原発のあたりでは周期的に巨大地震が起こっています。 1500年 明応地震 1605年 慶長地震 1707年 宝永地震 1854年 安政東海地震
これらは東海地震と東南海地震、南海地震が連動した巨大地震で、甚大な被害がもたらされ、文献にも記されています。そして、この地域では、100〜150年周期で、必ず巨大地震が起こることが科学的に裏付けられているといいます。
しかし、1854年 安政東海地震以来、150年以上も巨大地震が起きていません。 だから、いつ起きてもおかしくないと、地学者たちは口をそろえるわけですね。
<想定されている地震の規模> 地震の規模を表すM(マグニチュード)6の地震が放出するエネルギーは、 広島原爆1発とほぼ同じだそうです。
○阪神・淡路大震災は、M7.3 → 82発分
○東北地方太平洋沖地震は、M9.0 → 2万9000発分
東海地震は、M8〜9もありうると予測されており、浜岡原発の真下で原爆が3万発近く爆発するということが、今後近い未来にかなりの確立で起こりうるというわけです。
今年の5月6日、菅直人首相が、浜岡原発の全停止を要請しましたね。 停止期間は、2〜3年後の防潮堤の完成までの予定とのことですが、その先はどのように対策するのでしょうか。
また、心配はそれだけではありません。 浜岡原発には、福島第一原発と同じように、大量の使用済み核燃料が保管されています。もし、燃料プールが崩落したら・・・。
まとめ
私たちの生活は電力がないと回りません。しかし、それは今の生活を維持するとしたら、と考えた場合の話です。 いま、日本中で節電をしています。薄暗いスーパーや、駅構内を歩いていて、使わなくてもよい電力を消費する生活に、すっかり慣れてしまっていたことに気づきました。
原発の事故は二度と起こしてはなりません。 今私たちにできることはなんでしょうか。
それを考えるためにも、まずは情報を仕入れなければなりません。 原発の今の問題、そして未来に起こりうるリスクを知る上で、最適の本です。