新刊ラジオ第1403回 「トヨタ 危機の教訓」
全米で相次いだリコールとメディアの集中砲火をトヨタはどのように乗り切り、業績回復を果たしたのでしょうか。トヨタ研究の第一人者が緊急報告。日米同時緊急出版! ベストセラー『ザ・トヨタウェイ』の著者によるリコール危機のすべてがここに! トヨタが乗り切った“危機の教訓”はどの企業にも参考になるでしょう。
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
トヨタ式 危機を乗越える方法
● 著者プロフィール
著者のジェフリー・K・ライカー は、ミシガン大学教授。ザ・トヨタ・ウェイ・アカデミー共同創立者・会長。ティモシー・N・オグデンは、コミュニケーション・ファーム、ソナ・パートナーズのエグゼクティブ・パートナー。
この本には、2011年アメリカでのトヨタ車のリコール騒動が起きたとき、トヨタが危機をどのように乗り越えたかが書かれています。
まず、トヨタがなぜ世界で最も称賛される企業なのか? ということからスタートしていきます。 高い成長率と利益率。高品質。顧客満足度の高さなど業界でトップの座に就いた経緯を、トヨタ誕生の歴史を織り込んで紹介していきます。
世界最大企業として成長したトヨタですが、その絶頂期の2008年に起こった石油価格高騰と不況、リーマンショック後の世界不況により、トヨタ自身も予想しなかった形で市場が底割れし、売上が低下していきます。 この大不況のときにトヨタがとった対策は、大企業の会社としては異例の方法でした。 その方法とは・・・。 不況をもチャンスに変えてしまい、不況に強い企業へと進んでいく、トヨタが描かれています。
リコールの発端となった、サンディエゴでの事故
世界優良企業であるトヨタですが、サンディエゴで悲劇的な事故が発生して、全てが変わってしまいました。
2009年8月28日、マーク・セイラーが修理中のファミリーカーの代車としてディーラーから借りて運転していたレクサスが、時速100マイル以上の速度で制御不能になって、他の車と衝突後に谷間に飛び込み、車は炎上して、彼と彼の妻、娘、義弟が死亡するという悲劇が起こりました。
事故当時の様子は、録音された九一一番への緊急電話の録音記録によって知ることとなります。 この悲劇の事故が全米の注目を集めました。
運転していたマーク・セイラーは、カリフォルニア州ハイウェイパトロール隊のベテラン警察官だったということもあり、より注目を集めることに・・・。 警察官が自分の家族を制御不能になった車から守れないのならば、誰も守れないはずだと多くの人は感じたのです。 この事故のニュースは日本でも大きく取り上げられたので覚えている方も多いかと思います。 事故車は、2009年型レクサスES350で、その車種の全天候用フロアマットによってアクセルが踏まれ、車を制御不能に加速する恐れがあるために、2007年にリコールされていました。 その車種での最新モデルが事故を起こしました。 事故発生前の車の暴走中、義弟はアクセルペダルが押されたままの状態でブレーキが効かなくなったと九一一番に伝えていました。
トヨタが最優先で行ったこととは?
その後も全米では、アクセルペダルの危険性で8車種230万台のリコールが発表されます。 続くように欧州でも約200万台を対象にリコールを含む、回収修理を行う方針を発表、米国ではリコール対象車の販売生産を一時停止、フロアマットの問題で自主回収。 中国でも「RAV4」がリコールとなります。
世界のいたるところで起こるトヨタ車のリコール。 全米のメディアから集中砲火を浴び、豊田章男(とよだ・あきお)社長が連邦議会の公聴会に召喚されるという状態にまでなりました。 社会的にも厳しい立場に立たされたトヨタが、危機を乗り越え業績回復を果たし、 土壇場に追い詰められたときに行ったことは何かを、本書で全て明らかにしていきます。
トヨタがまず一番に行ったことは、 気のきいた広報用の発表文ではありませんでした。 なによりも顧客第一と考えている企業ですので、顧客の関心事と向き合うことからはじめました。 車載電子系への憶測、戻りにくいアクセルペダルの問題などもあり、顧客は自分の車が制御不能になって加速するのでは・・という不安があったので、この不安を解消するために、言葉ではなく行為で、この不安を解消することを最優先に取り組んでいきます。 ディーラーが力を入れ、コールセンターを強化させました。 ディーラーは顧客と対面する前線部隊として、顧客の不安を解消するために営業時間を延長したり、一部ではリコール最初の週は24時間営業にしたりもしたそうです。 なかには、車を運ぶレッカー車を派遣したり、修理しても車を運転するのが怖いという顧客には、限定的に車を買い戻したディーラーや、夫人が車を運転して暴走するかもしれないと考えただけでストレスになった老夫婦にも買い戻しに応じたディーラーもあったそうです。 実際に現場に行って見る、コールセンターの強化を図る、現地へ幹部を派遣させるなど様々な対策がとられていきます。 その他にも、トヨタは問題に対して細かく、正確、確実、誠意をもって対応していきます。その様子も細かく記されています。
事故さえ活かして会社を強化するトヨタ社
レクサスディーラーから借りた車が暴走するという事故は、後にディーラーが間違った車種用の全天候型フロアマットを代車に敷いたことが原因であると、事故の数カ月後に警察の正式な事故報告書が公表されました。
トヨタはこの事故を皮切りに、「戻りにくいペダル」問題、「トヨタ車の電子系の欠陥」問題へと進んでいくのですが、トヨタはこの事故によって起こった企業の危機をトヨタという企業の劣化していた部分を補強して、強化することに成功していきます。 そして、その結果がいま現在のトヨタです。
トヨタが直面した企業を根底から揺さぶるような危機が、どの企業にも起こりうる可能性はあります。 そのときに、どのような対策、対応をすればよいのか、あらゆる企業の参考になる一冊であると思います。
トヨタ 危機の教訓 |