新刊ラジオ第1402回 「スターバックス再生物語 つながりを育む経営」
本書は、スターバックスコーヒー黎明期から、現在の世界企業として成長するまでの秘密が明かされた「経営」の書です。現CEOハワード・シュルツ氏が、スターバックスと出会い、かつてはコーヒー豆の販売業者だったスターバックスをどのようにして作り上げてきたのか。経営哲学、ブランディング戦略、会社存亡の危機に陥ったときの経営が、たくさんのエピソードと共に書かれています。チェーンストア経営者だけでなく、“スタバファン”が読んでも大満足の内容です。
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スターバックスが世界ブランド足る理由
● 著者プロフィール ハワード・シュルツは、スターバックスコーヒーカンパニー会長 兼CEO。 ニューヨーク育ち。1982年、まだ4店舗しかなかったスターバックスコーヒーカンパニーにマーケティング責任者として加わり、シアトルへ移りました。その後、スターバックスを買収し、同社を高い企業倫理で知られる世界的なコーヒーチェーンへと育て上げました。タイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれるなど受賞暦多数。妻であるシェリとシアトルに住み、2人の子どもがいるそうです。
そしてもう一人の著者、ジョアンヌ・ゴードンは、元『フォーブス』誌記者、編集者。 長年にわたり企業やビジネスリーダーを取材してきた方です。
今回紹介する、『スターバックス再生物語』は、「スターバックスの経営」について書かれた本です。
現CEOのハワード・シュルツが、スターバックスと出会い、かつてはコーヒー豆の販売業者だったスタバをどのようにして今の形に作り上げてきたのか、といった黎明期のエピソードから、スターバックスが大切にしている「お客様への向き合い方」、ブランディング戦略や、経営哲学……。 そして、売上や成長に固執する余り、スターバックスとしての哲学を忘れてしまい、会社存亡の危機に陥ってしまった時の話や、それを乗り越えるまでのエピソードなど。スターバックスの経営と、これまでの栄枯盛衰が細やかに書かれています。
スタバ経営に興味のある方や、スタバの社員さんはぜひ読んだほうがいいと思いますし、スタバのファンの方も興味深く読めると思います。話のタネに友達に語ってみたりとか。
それでは本書から一節をご紹介していきましょう。
スターバックスのピンチ
みなさんは、米国にあるスバータックス 全7100店舗が全店一斉に閉鎖した出来事をご存知でしたか? 振り返って、2008年の2月のある火曜日、全店閉鎖されたスターバックスの正面ドアには、このような知らせが貼られました。
完璧なエスプレッソを作るための研修中です。 エスプレッソを作るには訓練が必要です。 わたしたちはそのための技術を磨いています。
一時的な閉鎖とはいえ、損失は数百万ドルが避けられないことは明白でした。 しかし、この決断は、当時スターバックスに起きていた“致命的な問題”を解決するためには避けられない、苦渋の決断だったんです。
この本の著者であり、当時はスターバックスの会長であった、ハワード・シュルツは、「2007年、スターバックスは道を失った」と当時を振り返っています。 曰く、「成長に固執するあまり業務から目をそらし、中核となるものから離れてしまっていた」といいます。
“中核となるもの”とは、もちろん“コーヒーの味”に他なりません。
2008年1月、CEOに復帰したハワード・シュルツは、売上低迷、問題解決のために、動きはじめました。 彼がシアトルのオフィスで、多くの問題に対処するために次から次へと打合せを行っているなかで、あるチームが、完璧なエスプレッソを作るために、13万5000人のバリスタを、短期間で、再研修する方法を考え出していました。
なぜ再研修が必要かというと、このときのスバーバックスのバリスタたちの間には、効率化の名のもとに、悪い習慣ができ上がっていたのです。
当時、スターバックスの問題点とは?
(余談ですが)みなさん、スターバックスの、クリーミーで甘〜い、エスプレッソベースのドリンクを作るのに、一番大切なものって、何だと思いますか?
……それは、「ミルクを泡立てること」にあるんだそうです。
しかし、このときのバリスタたちの中には、訓練を受けていなかった人がいたり、大きなピッチャーでミルクを大量に泡立ててそのまま置いておき、注文が入ったら、再度泡立てて使ったり……ということをしていた人がいたそうです(ミルクは一度泡立てると分離がはじまり、甘みを失うので、これはNGなんです)。
特に、接客業は顕著だと思うんですが、現場レベルでこういうことが起きていると、チェーン全体としてのクオリティの低下がはじまり、それは売上の低迷に繋がります。すると、コストカットや効率化を考えるようになり、現場は更に手を抜くことを考えて、売上は更に低下していく……。そんなスパイラルにハマるのではないでしょうか?
この状況を重く見たハワード・シュルツは、バリスタたちの再研修のために、全店舗一斉閉店を決断します。 もちろん、リスクもありました。売上と人件費で数百万ドルの損失は避けられませんし、ライバル店はこれに乗じてお客様を取り込もうとするでしょう。批評家は好き放題いうでしょうし、再研修となると、スターバックスの質の低下を認めたことになります。
しかし、ハワード・シュルツは、未来のスターバックスのために決断したのです。 そして、再研修を受けるバリスタたちに、ハワード・シュルツ自身の言葉で、このように語りかけました。
会社とか、ブランドとかではありません。みなさん自身が大切なのです。お客様に出すのにそれで充分かどうかを決めるのは皆さんです。わたしはみなさんの力になります。そして、なにより、みなさんを信用し、信頼しています。完璧なエスプレッソを淹れて、わたしたちの行動力を示しましょう。(P14より抜粋)
ハワード・シュルツの想い
ハワード・シュルツは、スターバックスと従業員のことを考えるとき、「愛」という言葉が浮かんでくるといいます。ここでいう愛とは、尊敬と尊厳、情熱と笑い、思いやり、本物であることといった、スターバックスで働くものが持つべき思いです。
全店閉鎖の決断は、コーヒーを完璧なものにすること以上に、スターバックスで働く全員に、「仕事に対する情熱や、献身を取り戻さなくてはならない」と確信していたからだといいます。
この火曜日を境に、スターバックスは再び走り出しました。 ハワード・シュルツの思いを受けたバリスタたちは、訓練に訓練を重ね、完璧なエスプレッソを提供し、少しずつお客様の心を取り戻し、掴んでいったのです。
** フィラデルフィアのあるバリスタの話です。 来店した男性客が、「エスプレッソを試してみたいのだが、苦すぎるのではないかと心配でね」といったお客様に対してバリスタは、「完璧なのをおつくりしますよ。でも、アメリカーノも用意しましょう」と言いました。 それから、エスプレッソのことやその起源、どうすればエスプレッソを楽しめるかについて2人で話したそうです。お客様はとっても楽しんで、「また来る」といって帰っていったそうです。 ** このようにして、地道な経営を続けてきたスターバックスは、2010年秋に、過去40年間で最高の業績を達成しました。 効率化して、単に世界中に新店をオープンするといった、店舗数による業績の成長では、決して手にできなかった成長でしょう。 お客様との結びつきを強め、新しい商品を導入し、販路を拡大してきたのです。
今日のスターバックスの収益は年間100億ドルとなっています。 世界54ヶ国に出店し、1万6000店舗でもって、1週間に6000万人ものお客様を向かえているそうです。 すべては、スターバックスに訪れた、大きな大きなピンチが、きっかけとなったことでした。
スターバックスの経営哲学や、ハワード・シュルツの考えを読みたい方にはぴったりの本です。よりノウハウ的な部分を求める方には、「スターバックスのユニークな成長モデル」という一節がおすすめです。 経営者だけでなく、スタバファンの方が読んでも楽しい一冊です。
スターバックス再生物語 つながりを育む経営
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