だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1398回 「プロ野球 二軍監督―男たちの誇り」

本書は、プロ野球“二軍の世界”を描いたノンフィクション。スポーツライターの赤坂英一氏が、監督、コーチ、選手たちへの取材を通して描いた群像劇的内容。入れ替わりの頻繁な2軍において、芽の出る選手とはどのような人間なのか。そして、2軍監督は選手たちに何を伝えて、1軍に送り出すのか。プロ野球の感動の裏にあるドラマが垣間見える一冊です。

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プロ野球 二軍の世界

プロ野球の二軍の世界を知っていますか? 芽の出ないドラフト1位もいれば、復活にかける元レギュラーもいる、 とても過酷な世界なんだそうです。

「プロ野球 二軍監督--男たちの誇り」(講談社/刊)は、スポーツライターの赤坂英一さんが、取材を通してプロ野球の“二軍の世界”を描いたノンフィクションです。

● 著者プロフィール 赤坂英一さんは、1963年広島県生まれのライターの方です。 86年、法政大学文学部卒業後、日刊現代に入社。 88年より、スポーツ編集部でプロ野球取材を担当。 同社勤務のかたわら、週刊誌、月刊誌でノンフィクションを執筆してきました。 そして、2006年に独立。 独立されてからは、『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』、『ジャイアンツ愛―原辰徳の光と闇』など、野球関連の著書を執筆されています。

本書では、プロ野球の世界でも、取り分け、“二軍の世界”に着目して、監督、コーチ、選手たちへの取材を通して、群像劇的なノンフィクションを執筆されました。

1章ごとに、それぞれスポットを選手やコーチが変わり、ひとりひとりの選手たちの素顔が見えたり、なんとか1軍に送り出してやりたい! という監督の思いなどが垣間見えて、非常に読み応えがあります。

今回は、第2章「ショートのプライド」より、尾崎匡哉さんの一節をご紹介します。

「ショートのプライド」 尾崎匡哉選手

尾崎匡哉さんは、報徳学園高校時代、140km/hの直球を投げ、投手としても注目されていました。2002年春の選抜高等学校野球大会では遊撃手として全国制覇に貢献し、同年のプロ野球ドラフト会議では、日本ハムから1巡目氏名を受け、入団。 しかし、入団以来2007年までは一軍出場は一度もありませんでした。

そんな尾崎選手、2008年の春季キャンプでは、捕手のポジションに挑戦することになります。 ……しかし、ドラフト1位で、満を持して入団したショートの選手です。 その尾崎選手が、なぜキャッチャーにコンバートされることになったのでしょうか?

当時、二軍の内野守備コーチを務めていた水上コーチは、ショートとしての尾崎選手の資質を誰よりも買っていたといいます。 そして、取材に対してこのように答えています。

「初めてキャッチボールを見た瞬間、こいつはうまい、と思いました。もうとっくの昔にレギュラーになっていてもおかしくない素材だったんです。だから、何としてもショートで匡哉を一人前にしたかった、最初はね」

野球経験のある方ならご存知かと思いますが、ショートというポジションはグラウンドの華です。チームで守備が一番うまい選手がやるポジションです。

水上コーチから見て、尾崎選手のピボットは、群を抜いていたそうです。 (※ピボットというのは、打球を捕って送球する一連の動作)

ランナーが一塁にいて、三遊間の最深部に鋭い打球が飛ぶ! 並みのショートなら飛びついても間に合わない! ボールはレフト前へ抜ける、これで1塁、3塁か?! ……と思われた矢先、尾崎選手は目にもとまらぬ速さでグラブにボールを収めると、 間髪入れずにセカンドへ送球し、あっという間にゲッツーを成立させる、という。 とにかく、ピボットの動きは郡を抜いていたそうです。

しかし、正面に転がってくる平凡なゴロの処理をするときには、尾崎選手の資質はマイナスに作用したそうです。

一軍に上がるための要件とは

尾崎選手は、取材にこう答えています。

「ゆっくり待って捕ればいいゴロに、自分の動きを合わせられないんです。とっさにグラブを出して、土手や指先で弾いてしまう。しっかり握りなおしてからでも、ランナーを殺すには十分間に合うのに、ついすばやく送球しようとしてポロリとやる」

「1年目からずっと指摘されてましたけど、わかっていてもできないんです。正面のゴロに対して、しっかり捕ろうって思うと、かえってうまくいかない。逆に難しいゴロがくると、おっ、これなら何とかなるぞという気になる。これがおれの捕る打球やっていいますか。そういうときは、実際にイメージどおりのプレーができるんです。そんなことの繰り返しでした」

水上コーチは、「尾崎選手は早くから才能が開花して、素質優先でやってきた反動で、ぶつかった壁を突破するのに時間がかかっているんだ」と評しています。 水上コーチは地道にトレーニングをしていきますが、しかし、中々うまくいかず、イラ立つ尾崎選手は言葉も悪くなり、水上コーチもつい声が高くなっていきます。

やがて水上コーチは、今のままでは、一軍に尾崎選手の居場所を作ることができないという、危惧を抱き始めます。 守備力云々の話ではなく、今の日本ハムでは尾崎選手のようなタイプのプレーヤーが求められていないからです。つまり、難しいゴロをさばける派手なファインプレーではなく、どんなときでも正面のゴロを確実にアウトにできる能力こそが求められているということだったのです。

途中ですが、尾崎選手のエピソードはここまで。 続きは、本で読んでみてくださいね。

一軍と二軍は需要と共有の関係にあるのですね。 二軍は、一軍が求めている選手を育てなければなりません。二軍は二軍でリーグを組んで試合をしていますが、それよりも選手を一軍に上げてやることを命題として、日々トレーニングを積んでいるのです。 コーチ、監督たちは、こんなに選手やチームのことを考えているのか、という人間模様が見えます。

この本に登場する選手紹介

第1章「やられたらやり返せ」 日本ハムファイターズで二軍監督を務めた、水上善雄さん。

第2章「ショートのプライド」 ドラフト1位入団後、二軍暮らしが続く日本ハムファイターズの尾崎匡哉さん。

第3章「打撃投手兼二軍監督」 入団後2年間、一軍に上がれなかった西武ライオンズの栗山巧さん。

第4章「デーブとおかわり」 西部ライオンズ二度、二軍監督を務めた片平晋作さん。

第5章「赤ゴジラ誕生」 広島カープの二軍で嶋重宣さんを指導した、山崎立翔(りゅうぞう)さんと、内田順三さん。

第6章「最近の若いやつらは」 福岡ダイエーホークス打撃コーチから千葉ロッテマリーンズ二軍監督になった高橋慶彦さん。

第7章「ノックは素手で受けろ」 江川智晃さんを指導した、福岡ソフトバンクホークスで二軍監督を務めた鳥越裕介さん。そして、富士重工業からヤクルトスワローズに入団した鬼崎裕司さん。

第8章「ひとりぼっちの二軍」 日本ハムファイターズなどで二軍コーチを務めた後、ヤクルトスワローズの二軍監督になった猿渡寛茂さん。

第9章「ヒゲを剃ってこい」 中日ドラゴンズの二軍で、川相昌弘さんの指導を受けた岩崎恭平さん。

第10章「おまえはクビだ」 日本ハムファイターズ一軍監督、巨人二軍監督などを歴任した高田繁さん。

皆さんの好きな選手はいましたか? とてもよい本です。ぜひ、読んでみてくださいね。

プロ野球 二軍監督―男たちの誇り