新刊ラジオ第1317回 「「感動」に不況はない -アルビオン社長小林章一はなぜビラ配りをするのか」
不況下の日本で業績を上げ続ける高級化粧品会社・アルビオン。店舗数の削減。返品の受け取り。高級化粧品メーカーながらビラを配る。化粧品業界の常識を覆し、躍進し続けるアルビオン社長・小林章一の「感動」マネジメントとは?利益や売り上げを優先する経営では生き残れない!
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ビラ配りが不況を打破
「ビラ配り」したことありますか? アルバイトの経験がある人もいるとか思いますが、単調作業だし、なかなか受け取ってもらえないし、結構辛いものですよね。
今回は、そんな「ビラ配り」を、社長自らが行い、この不況にも売り上げに大きく貢献をしているという会社について書かれた本を紹介しましょう。
●著者について 大塚英樹さんは、NYの雑誌記者を経て、83年にフリーとなったライターです。 逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム大統領など、数々のスクープインタビューをものにしてきた実績を持ち、現在は、国際経済分野を中心に、政治、社会問題などの分野で幅広く活躍されています。これまで500人以上の経営者にインタビューを行っており、特に、ダイエーの創設者・中内功氏には、83年の出会いから、その死まで密着を続けていました。 今回は、アルビオン社の小林章一という人物について書いています。
●この本のテーマ アルビオン社長、小林章一が自身の経営を語る
アルビオン社は、デフレ不況下にもかかわらず増収増益を続けている高級化粧品会社です。98年から08年の10年間で、売上高が265億円から470億円に拡大しています。低価格路線で生き残りを賭ける企業が多い中、高級志向のまま、増益しているのは特筆に価しますね。
そのアルビオン社長の小林章一という人物は、コーセー創業者一族の三代目です。 著者の大塚さん曰く、三代目というと「御曹司」というイメージが強く、特に名門の三代目御曹司となると、その歴史故に経営改革ができないケースが多いとのことです。 しかし、小林さんは旺盛な改革マインドを持ち、数々のイノベーションを実行してきました。
長年に渡って500人以上の企業トップへの取材を重ねてきた大塚さんにとって、小林章一のような三代目経営者は初めてだったそうです。この本で、小林章一という人物のことを、「現在の企業トップ、若きサラリーマン、学生の方々に知ってもらいたい」 とこの本を出したのだそうです。
大企業社長がビラ配りをする理由
本書のタイトルにもなっている「なぜビラ配りをするのか」という部分を取り上げてみましょう。高級化粧品を販売している会社の社長が、「ビラ配り」という泥臭いことをしているのは何故か?
1.ビラ配りは面白い 「まず、ビラ配りって率直に面白いんですよ。」 社長である小林さん自身が率先してビラ配りをするそうなんですが、こういう泥臭い行動のほうが、より販売店やお客さんに近づけるんだそうです。その結果、自分たちもお客さんの表情や空気感をイメージしやすくなるし、その上で新しいお客さんに来てもらったときは感動すると言います。
2.ビラ配りはアルビオン社の歴史の積み重ね 『昔からアルビオンはビラを配ってきたし、そうやって積み重ねたことで、徐々に口コミで広がってきたのがアルビオンの歴史なんです』 三代目の社長となる小林さんですが、創業当時からの企業文化の原点に返って、そのマインドを大切にしているといいます。長い歴史を持つ企業の中には、企業理念が形骸化しているところも少なくありません。そんな中で、小林さんは創業当初からの「マインド」を大事にしているんです。
3.営業という仕事のあるべき姿 『ビラ配りにこだわったのは、営業の仕事っていったい何なのかを考えた結果です』 マインドにしたがっているだけではありません。アルビオン社における営業チームは「こういうお客様つくりをしましょう」という企画はしますが、接客はしていません。実際に接客をするのは、販売店や美容部員です。物を売る仕事である営業チームが、実際の売り上げに貢献できるものは何か、販売店と一緒に頑張れるものは何か、と考えた結果が「ビラ配り」という形だったんだそうです。
「感動」に不況はない
本書のもうひとつのキーワード。それは「感動」です。文中においても、小林から何度も「感動」という言葉が出てきます。小林さんは、これまでに数々の社内改革やブランドの立ち上げを行ってきましたが、そのすべての行動の原点は「感動」だったんだそうです。
例えば、お客さんがアルビオンの商品を見て、使って、得られる「感動」。 工場や技術者が「いいものを作ろう」と努力して困難を乗り越えた末に、ひとつの商品を生み出す「感動」。 営業や販売に携わる人がプライドを持って仕事をし、達成感や喜びを得たときの「感動」。 それらがすべてが、小林さんの原点であり、アルビオン社の原点なのです。
小林さんがアルビオン社を継ぐ前、西武百貨店に就職したときの話を紹介しましょう。
大学卒業後、西武百貨店の陶磁器や工芸の販売部門――商品が一点で数万円から数百万円もする売り場――に、配属されたときの話です。
小林さんはある外国人夫婦のお客さんの接客をしました。 そのお客さんは購入をかなり迷って、後日買うかどうか返答すると言って帰りました。その後、「別のお店で買うことにした」と電話で告げられました。
しかし、その際に、「非常にすばらしい接客で感謝している」とも言ってもらえました。小林さんも、この外国人夫婦のお客さんがとてもいい人たちだったので、滞在先のホテルに感謝のメッセージの伝言をお願いしました。 すると、その翌日、その夫婦から連絡があり、「日本で多くの人に会ったが、あなたのように心の籠もった接客をしてくれた人はいない」と言われ、結果、最初に薦めた商品4点を買ってくれたんだそうです。 まさにお互いに生まれた「感動」が、商品が売れるという結果になったわけです。
ちなみに、この当時、小林さんの半年の売上目標は数百万だったそうです。 配属されてからまったく数字が出せなかった小林さんでしたが、このことがきっかけとなり、一気に二千数百万の売上げを達成してしまいました。 大事なのは、「売上げ出すためにいい接客をしていた」わけではなく「「感動」を念頭に置いて接客して、結果がついてきた」ということなのではないでしょうか。
商品を使う人のことを真剣に考える。よりよいモノを追求する。そして、使った人が「いい!」と感動してもらえるようにする。小林さんこの気持ちこそが大切で、売り上げは結果論でしかないと言います。 もちろん経営者ですから利益を考えないわけではありません。しかし、口では「お客様第一」と言いながら、目先の利益を優先してしまう企業もある中、小林さんは、原点となっている思いを忘れずに初志貫徹しています。
長らく続く不況の時代。本当にお客さんを動かすキーワードは「低価格」や「売上」ではなく、「感動」なのかもしれません。
「感動」に不況はない
「長い目で見れば、きれいごとしか残らない」深い言葉です。。 |