だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1295回 「マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?」

「牛丼チェーンの値下げ競争はなぜ続く?」「で、AKB48の総選挙投票権入りCDは成功だったの?」「なんでブランド品って高いワケ?」…そんな、身近な経済の問題をすっきり解説する本です。中高生でも読める難易度で、経済の面白さを知るには十分すぎる内容。経済学の履修者が読んでも、意外な経済の一面を見つけ出すことができるでしょう。

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身近な「価格」の裏に隠れた、戦略を解き明かす

● 著者について 吉本佳生さんは、エコノミスト・著述家(元大学教員・元銀行員)。専門は金融経済論、生活経済学、国際金融論など。著書に『スタバではグランデを買え!』『デリバティブ汚染』『禁欲と強欲』など。 NHKのテレビ番組「出社が楽しい経済学」の監修・出演もされています。経済学を身近な切り口で紐解き、たのしく経済を学べるような活動をされている方です。

● この本のテーマ 身近な価格の裏に隠れた、戦略を解き明かす

本書は、経済活動の中でも「消費」に焦点を当て、牛丼チェーンの価格戦争、ファーストフード店の販売戦略、人気ゲーム機の価格暴落といった経済の疑問に答える内容です。

「価格差別」が経済のセオリー?

経済学には、「価格差別」という考え方があります。同じ商品を売るときに、誰にでも同じ価格で売るのではなく、高くても買う客には高く売り、安くないと買わない客には安く売るという考え方です。

しかし、売り手側がお客の予算感を把握することは難しく、「価格差別」の実現は一筋縄ではいきません。そこで売り手側は、手を変え品を変え色んな戦略を立てて「価格差別」を生じさせて儲けを出そうとするのです。

この「価格差別」を実に上手に活用して儲けを出した例があります。

某アイドルの投票権付きCDの戦略

某アイドルグループ歌手がCDを出しました。 そのCDには、熱心なファンなら何枚でも同じCDを買いたくなるような“魅力的なオマケ”が付いていました。その狙い通り、熱心なファン達はCDを何枚も買いました。しかし、CDを複数枚買った人は、オマケだけ抜いて、CDの転売を始めました。 結果として、販売直後にもかかわらず見開封の新品CD(定価3,980円)が、2,000円とか、1,000円で出回ることになってしまいました。

― さて、このCDの販売元は、転売のせいで損をしたのでしょうか?

実はこのCDの販売元は、転売が理由でちっとも損はしていません。 それどころか、新品のままのCDが、1,000円で転売されたことさえも好都合だったのです。

その理由は次の通りです。

例えば、A君・B君・C君という、3人のアイドルグループファンがいたとします。

それぞれ、グッズの購入に使える予算は下記の通りです。 ・A君:5,000円 ・B君:10,000円 ・C君:50,000円

3,980円の価格で売り出されたCDの特徴は、 ・ファンなら誰でもほしいオマケ(投票権)が付いている。 ・しかも何枚でもほしくなるカラクリ付(CD1枚に1回分のファン投票権が付いている) ・つまりCDを買った分だけ、オマケの投票権で贔屓のメンバーに投票することができる仕組み。

すると、A君、B君、C君の消費はこのようになります。

・A君は 5,000円まで使えるので、 1枚買って、 3,980円を出費する。 ・B君は10,000円まで使えるので、 2枚買って、 7,960円を出費する。 ・C君は50,000円まで使えるので、12本買って、47,760円を出費する。

ひとつの価格で販売されるCDなのに、オマケを工夫することで、高くても買う客には予算の上限に近い金額を出費させることに成功しています。つまり、儲けの鉄則「価格差別」の実現に成功しているのです。

CDを転売されてもへっちゃらな理由

続いて、「転売さえも好都合」の理由です。

さっきとは別の、A君、B君、C君、D君という同じ学校に通う4人がいるとします。 それぞれの予算は以下の通りです。

・A君の予算は、10,000円 ・B君の予算は、 2,000円 ・C君の予算は、 1,000円 ・D君の予算は、 4,000円

10,000円の予算内では、A君は2枚しか買うことができませんが、1枚1,000円で友達に転売することを考えれば、3枚まで買うことができます。ひとまず、3枚買って一旦11,940円出費しても、翌日友達に、オマケを抜いたCDを2枚転売してしまえば、2,000円は回収できるので、差引き9,940円の出費になり、予算内に収まります。

A君の手元に残るCDは、1枚だけなので、1枚のCDに対して9,940円の支払となり、結果として、Aにとっての価格は1枚あたり9,940円になります。 高くても買う客が、まさに高い価格を払った価格なので、「価格差別」が実現しています。

一方で、B君とC君もCDは欲しいけど、3,980円は払える価格ではありませんでした。 しかし、A君が1,000円で転売してくれたので、3,980円のCDを1,000円で買うことができるのです。 販売元としては、転売があることによって、「安くないと買わない客」にまで売り込むことができたことになります。B君C君が安く買った分の負担は、A君がしっかりとしています。

もし転売がなかったら、A君も2枚しか買っていなかったでしょうし、B君もC君もCDを買っていなかったでしょう。しかし、転売があることで、A君は3枚CDを買い、転売で、B君もC君も買うことになったのです。

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マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?

マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?

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「牛丼チェーンの値下げ競争はなぜ続く?」「で、AKB48の総選挙投票権入りCDは成功だったの?」「なんでブランド品って高いワケ?」…そんな、身近な経済の問題をすっきり解説する本です。中高生でも読める難易度で、経済の面白さを知るには十分すぎる内容。経済学の履修者が読んでも、意外な経済の一面を見つけ出すことができるでしょう。