新刊ラジオ第1263回 「北の後継者キムジョンウン」
脱北までの13年間、北朝鮮で「金正日の専属料理人」を務めていた著者が、今まで語られなかった「次期指導者の幼き日」の思い出を告白する。未だ謎の多い後継者・金正恩とはどの様な人物だったのか?それを支える一族と政府の実体とは?世界が注目する新しい指導者の素顔が明らかになる一冊です。
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金正日専属料理人が、金正日の後継者を語る
<金正日総書記の三男・正恩氏が実質的な後継者に選ばれた> 北朝鮮から届いたニュースに、世界中が注目しました。どうしてもきな臭いニュースを発信する事が多い国ですが、これが一つのターニングポイントになるのは間違いないでしょう。 そこで今回は、未だ謎の多い、次期後継者、金正恩氏の人物像と、将軍ファミリーの実体を、最も近くで見てきたであろう日本人が明かした本を紹介します。
● 著者について 藤本健二さんは、“金正日専属料理人”として、1987年から約13年間を北朝鮮で過ごし、2001年の脱北後は、日本で北朝鮮の内情に関する証言や書籍を出し続けている方です。バンダナ+サングラス+顎髭というインパクト大のビジュアルなので見たことがある方も多いのでは?
本書には、事実上後継者とされている、キム・ジョンウン氏の人物像について、藤本さんの記憶にもとづいて書かれています。更に、13年以上に渡る北朝鮮生活で実際に目にした、将軍一族とそれを支える組織の実体なども詳細に明らかにされていました。
後継者候補たち
本によれば、キム・ジョンイル氏には、3人の妻との間に5人の子供がいるそうです。この内、長男ながら異母兄のキム・ジョンナム、次男のキム・ジョンチョル、三男のキム・ジョンウンの3人が後継者候補として注目されてきました。
ジョンナム氏……2001年、ディズニーランド目当てで入国するも、成田空港で入国管理法違反の容疑で国外退去処分。 ジョンチョル氏……2006年、ドイツで行われたエリック・クラプトンのコンサートに行っていた所をメディアにキャッチされた。 ジョンウン氏……1998年からスイスのインターナショナルスクールに留学していてたことが最近明らかになったが、情報が一番少ない。
ちなみにジョンチョル氏とジョンウン氏は、コ・ヨンヒ夫人との子供で、ジョンナム氏はソン・ヘリム夫人との子供です。長男にも関わらず後継者に選ばれなかったのは、コ・ヨンヒ夫人が正室的扱いだったためだそうです。
正恩氏とは
先月末、44年ぶりに開かれた朝鮮労働党代表者会で、ジョンウン氏には実質的な後継者として、大将のポストが与えられました。その席で初めて、現在のジョンウン氏の映像が公開されました。
藤本さんは、ジョンウン氏がまだ7歳の時に知り合ったそうです。しかし兄弟の初お披露目の席で、ジョンチョル王子は直ぐに握手して力強く握り返してくれたのに対し、ジョンウン王子は睨み付けられた上に握り返してくれなかったという寂しい思いをしたのだとか。
その後は2人の遊び相手に任命されたことで仲良くなり、良き友人・相談相手のような関係は大きくなっても続いたそうです。
ジョンウン氏とジョンチョル氏は真逆の性格で、昔から兄のジョンチョル氏の方が大人しく穏やかで、ジョンウン氏の方がやんちゃで気は強かったとか。しかし、リーダーシップの開花も早かったようで、10代半ばから早くも、指導者の素質を見せていたそうです。
藤本さんの記憶に残ったこんなエピソードを紹介しましょう。 10代半ばにもかかわらず、リーダーの素質が見えてきます。
招待所内でバスケットボールの試合が終わると、ジョンウン大将は必ず自分のチームで反省会をする。そして一緒にプレイした選手達に対して、どこが良かったか、悪かったかを指摘する。 素晴らしいプレイをした選手には名指しで、「さっきのパス、とても良かった」と手を叩いて誉める。一方ミスした選手には、悪かった点を具体的に挙げて厳しく叱っていた。しっかりとメリハリをつけて、叱るべき所では叱る。 十代半ばでそれができるだけでもすごいのだが、怒鳴りつけた選手について、後でこう言ったのには驚いた。 「彼のことあんなに怒ったけど、大丈夫かな?立ち直れるかな?」 そう言いながら、笑みを浮かべているのだ。 それを見て私は思った――怒ることも計算ずくなのだ。相手に自分の足りない部分を気付かせて、次は怒られないよう努力させるために怒っているのだ――と。 単に人の先頭に立とうとするだけでなく、十代半ばにして、人の心をつかむ術を身に付けていたのには感心するばかりだった。
なぜ三男が選ばれたのか
マスコミの多くは、最初長男のジョンナム氏が後継者に一番近いと考えていましたが、藤本さんはずっと正恩氏が後継者に選ばれるだろうと思っていたそうです。何故その予想通りになったのか?
生来の気の強さ+早くから備わっていたリーダーシップに加え、ジョンチョル氏の性格が指導者向きではないことや、出生に絡むジョンナム氏の微妙な立場といった事情から、確信が持てたそうです。 さらに留学の経験もあったジョンウン氏は、早くから他国の政治や経済に関心があったそうで、特に日本や西側諸国と北朝鮮の、経済力・市民生活の質の差を気にしていたそうです。本にもある「5時間の会談」がそれを物語っていました。
国や国民の事を憂う一面が、有望な後継者への期待と確信に繋がったのではないでしょうか。
新体制とこれからの北朝鮮
そんなジョンウン氏も、軍内部ではまだ実績が残せていないのが現状です。本では政府を支える幹部たちのことにも詳しく触れています。その幹部たちや家族のサポートの下、どれだけのリーダーシップを発揮できるか?また国際社会の一員としての責任を果たせるか?その動向はこれからも注目されるでしょう。北の後継者キムジョンウン |