「融資」を制す者が起業を制す
賢い融資の受け方38の秘訣

賢い融資の受け方38の秘訣

著者:田原 広一
出版:幻冬舎
価格:1,650円(税込)

Amazonでみる

本書の解説

「コロナ不況」から立ち直れていない日本だが、そんな中でもビジネスチャンスを見出して起業する人は少なくない。

ただ、その道のりは険しい。新しく創業した会社の「生存率」については様々データがあるが、経済産業省の中小企業白書(2006年)では、創業1年後で72%、3年後で約50%、5年後で40%となっている。創業してから5年以内に、半分以上の会社が潰れてしまうということだ。そして、会社が潰れる理由は、いつの時代もたった一つである。

資金ショートが起きやすい創業初期をいかに乗り切るか

売れると目論んでいた商品がまったく売れなくても、コロナで客足が途絶えても、手元に資金があるうちは、会社は潰れない。会社が潰れる理由の大半は「資金繰り」である。そして、創業初期ほど資金ショートが起きやすい、とするのが『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一著、幻冬舎刊)だ。

もちろん、起業にあたって自己資金はできるだけたくさんあった方がいいのは間違いない。本書では「最低でも半年分くらいは、売上が0でも生活できるくらいの生活費を貯めておくこと」をすすめている。

ただ、そもそも開業するだけで多額のお金がかかるわけで、それにプラスしてお金を貯めておくのは、ほとんどの人にとっては難しい。そこで「融資」に頼ることになる。

「借金=悪」の発想を捨てよ

「融資」とは一種の「借金」だ。この借金をことのほか嫌い、避けようとする気質が日本人にはあり、無借金経営を美徳とする風潮にもそれはあらわれている。しかし、この気質が起業ではマイナスにはたらくことがある。

どんなビジネスであれ、創業初期はお金が入ってきたりこなかったり、資金繰りが不安定になる。そんな時に頼れるのは現金だ。借入なしで手元に100万円あるのと、借入が500万円で手元に600万円あるのとでは、たとえ大半が借入によるものでも、今使える600万円が手元にある方が事業を存続させるうえでは強い。

その意味では、融資をはじめとする借入は起業には不可欠と言っていい。「融資に頼らずできるだけ自己資金でやった方がいい」も「資金繰りに困ったら、最後の手段として融資を受ければいい」も、借金への嫌悪感から生まれた誤解なのだ。

「資金繰りに困ったら融資を受ければいい」はなぜまちがっているのか

そもそも「資金繰りに困ったら融資を受ければいい」は、ほとんど不可能だ。事業をすでに始めていて売上があがっていない赤字の会社に融資する金融機関も、事業がうまくいかずにお金がない会社に出資する投資家も、まずいないからである。

困ってからお金は借りられない。お金を借りるなら事業を始める前の「まだ困っていない時期」が一番借りやすい。「いざとなったら借りる」ではなく「借りられる時にお金を確保しておく」が、資金繰りの不安定な創業初期を乗り切るための鉄則なのだ。

「困っているわけでもないのにお金を借りて、利息を払うのはバカバカしい」という考え方も捨てた方がいい。「転ばぬ先の杖」としての資金を用意できるのであれば、低利が続く現在の利息は、事業を頓挫させないための「掛け捨て保険」とも捉えられる。



もちろん、融資を受けるには準備すべきことが多々あり、誰もが無制限にお金を引き出せるわけではない。本書のキモは融資を受ける具体的な手法にある。

創業融資の審査をパスする方法から、最初に借りるべき機関、少しでも多くの融資を引き出すためのひと工夫など、知っているのといないのとでは事業の先行きに大きな違いが出る融資の知識を授けてくれる。

起業の成否は商品やサービスだけで決まるものではない。資金繰りが会社の命運を決める以上、むしろそれは「融資のリテラシー」で決まるのだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■住宅ローンは組むのに事業融資は忌避する日本人の特性

『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』は、これから起業する人や既に起業していてこれから事業を拡大していこうとしている人に向けて融資の知識を授けてくれる一冊です。本書の中で借金に対する抵抗が強い日本人の気質を指摘されていましたが、この気質が起業時の資金集めや資金繰りにどう作用しているのかを教えていただければと思います。

田原: そもそも、なぜ日本人の多くが「借入=悪」と考えているのかというと、テレビなどで事業を起こしたはいいものの借金苦で自殺してしまった人のエピソードを見たりしたことによる刷り込みが大きいのかもしれませんね。

ただ、おもしろいのは住宅ローンを組むのはいいことだとされて、奨学金を借りるのも悪いこととは考えられていません。これらも起業時の融資も金融機関からの借入という意味では同じです。

もちろんカードローンやサラ金からの借金はダメですけど、創業時の融資は政府系金融機関からの借入であって、悪いものではないということはわかっていただきたいですね。実際、旦那さんが独立開業をするのに融資を受けようかという話をすると奥さんが頑なに嫌がる、という話はまだたくさんあるので。

奥さんの側に借金に対するまちがった刷り込みがあるということですね。

田原: そうですね。たとえばその奥さんの両親が昔ビジネスをやっていて、借金で生活が苦しかったとか、そういう記憶から借金に対して否定的なイメージがあったり。

あとは、親族の家に行って起業の話が出た時にポロッと「借入をする予定なんだよね」と言った途端に、そんなこと一言も言っていないのに担保を取りに来たんだと親族が勘違いするパターンもままあります。

ただ、それで借入を断念した結果、タイミングを逃してしまって、借りたお金で成長させられたはずの事業を成長させられず、にっちもさっちも行かなくなって逆に変な借入に手を出してしまうパターンは本当に多い。

それでは本末転倒ですね。

田原: 問題は創業時というタイミングを逃して、業績が良くない状態だと借りたくても借りられないことです。あの融資金があればもうちょっと成長できて次の出資も受けられたのに、ということはあり得る話なんです。

無借金経営信仰についても指摘されていましたね。

田原: 無借金経営も良し悪しなんです。たとえば任天堂の経営者が「うちは無借金経営です」と言ったら、「無借金でそこまで成長したのはすごいですね」となるのですが、町の小さな会社の社長が同じことを言っても「借金していればもっと成長できたかもしれませんね」となる。

これも「借金=悪」と捉える人が多いので、「無借金=悪い部分がない」と考えるんでしょうね。ただ、銀行と取引実績を重ねて関係を維持することは、会社にとって大事なことなんです。

一度ある会社から相談を受けたことがあるのですが、その会社は手元資金が400億円あって、それに加えて銀行から融資も受けていました。ただ会社の規模的に400億円あれば融資されたお金は使わないので、「金利が高い」と言って返済してしまったんですね。その時に「もう使わないから返すわ」という感じで、銀行員への態度が悪かったこともあって、その会社は銀行からの評価が下がってしまった。結果、その後の融資を受けられず、やりたかったM&Aができなくなってしまったんです。

借りるときは丁寧な態度なのに、返す時に悪態をつくというのは当然銀行からの印象が悪いですし、借りたい時だけやって来て、手元にキャッシュがいらない状況になると銀行との接点を切る経営者はあまりいい経営者だとは見なされないということは知っておくべきです。

なるほど。

田原: 400億あると言っている会社が1億、10億借りたいっていうのは銀行側からすると意味がわからないじゃないですか。さらにM&Aで新しく会社を買うと言っている。

銀行側からしたら「貸した後に飛ばれるんじゃないか」となるわけです。それまでに継続して付き合いがあれば絶対貸すはずなんですけど。

銀行側からすると信頼性が疑わしく映ってしまうわけですね。

田原: そうです。結果貸してくれなくなる。そうなると新しいことにチャレンジできなくなってしまうんです。もちろん、ちょっとずつ成長していくなら手元に現金がそこまでなくても資金繰りは回るんですけど、今がチャンスということでアクセルを踏んで勝負に出る瞬間も、やっぱり経営をしていたらあるはずなんですよ。

一気に事業を伸ばそうとすると出ていくお金が増えますから、資金繰りが一時的に悪くなります。でも、銀行と付き合いを持っておけばそういう時に助けてくれるんです。成長しやすくなりますし、潰れにくくなるんですよね。

資金繰りが不安定な創業初期を乗り切れずに資金ショートしてしまう会社は融資を受けていないケースが多いのでしょうか?

田原: 多いですね。一番悪いパターンは融資を受けずに創業して、三ヶ月くらいやってみたら売り上げが立たず、カードローンでお金を借りてしまい、その限度額ギリギリになってから「低金利で借りられますか?」と言って銀行に来るパターンです。

創業時に融資を受ければ半年くらいは潰れない資金を確保できたりするので、積極的に融資は活用すべきだと思います。

融資を受ける最大のチャンスは“創業前”とされています。現在の創業時融資を受ける難易度について教えていただければと思います。

田原: 準備さえすれば9割9分通ると思います。ただ、あくまで「準備をすれば」という前提があっての話で、やろうとしている事業の分野での経験もなく自己資金もないという状態で相談に行っても落ちてしまうことが多いです。

私の会社には元日本政策金融公庫の社員として創業時融資に携わっていたスタッフがいるのですが、彼が言うにはいきなり窓口に来て融資を頼んで審査を通る人は5割かもっと低いくらいじゃないか、と。これを高いと捉えるか低いと捉えるかですが、僕は低いなと思っています。

今おっしゃった準備というのは、本書でも解説されているような説得力のある創業計画書を用意したり、自己資金を用意したりといったことですよね。

田原: そうですね。あとは信用情報を傷つけないように生活するのも準備です。たとえば個人的な支払いで遅延を繰り返していると信用情報に傷がついてしまいます。「先月遅延した」みたいな人は、融資はすごく通りにくくなります。期日がある支払いは遅延しないほうがいいですね。

準備のところで他にアドバイスはありますか?

田原: あとは起業した後のことを考えて経験をつけておくのも準備だと思います。同じように脱サラしてラーメン屋さんを始めるのでも、半年くらい本気で修行してからやるのと、何もしないで始めるのとでは結果も変わってきます。

自己資金を貯めて経験を積んで信用情報も完璧だったら、あとはビジネスをどう運営していくかを考えておく、というのも準備です。あまり背伸びしすぎない、妥当な事業計画を立てるのが大事です。

■融資審査に通る創業計画書 通らない創業計画書

傾向と対策を知って備えさえすれば、誰でも融資はクリアできるとされています。融資の際の「傾向」とはどのようなことを指すのでしょうか?

田原: 相手が何を求めているのかを把握して、それに応えるような準備をすることです。

たとえば転職面接であれば、相手は「この人はうちに転職してきた後に活躍できるかどうか」しか見ていませんよね。融資も同じで、金融機関は「この人は貸したお金を返してくれるかどうか」しか見ていません。それが傾向です。「貸したお金を返してくれる人」とはどういう人かを考えて、創業計画書で表現していけばいい。

創業計画書については「融資審査に通りやすい書き方」を解説されていましたね。

田原: 創業計画書はフォーマットがあって、その項目にあることが聞かれるので準備はしやすいと思います。創業時の融資って、そもそも過去がないので過去の実績についての質問がないですしね。

「創業の動機」や「どういうことをやっていくつもりか」「取引先や仕入れ先、外注先」「従業員はどうするか」「融資金をどういうところに投資するか」など、「これから」について聞かれるので、そこに答えていけばいいわけです。

融資を受けにくい業種、業態などはありますか?

田原: あります。最近厳しいのがフランチャイズです。コンビニの場合は潰さないように体制が整っているので、融資は比較的受けやすいのですが、問題はコンビニ以外のフランチャイズで、こちらはすごく厳しくなっています。

ただ、絶対無理ということではなくて、たとえば清掃業社で経験があって、これからはフランチャイズに加盟することで自分の経験を活かしつつフランチャイズのメリットも受けたいというような提案であれば通りやすいと思います。

あとは、真似されやすいビジネスも比較的難しいです。たとえば中国から商品を仕入れてメルカリで売るようなビジネスで、なおかつ扱うのが新品だけというようなケースは誰でも真似ができてしまうじゃないですか。

金融機関側も「新品しか仕入れないで戦えるほど甘くない」ということはわかっていますから、古物商の資格を持っていないと9割9分審査落ちします。

創業から2年間で、2、3行以上の金融機関と付き合うことをお勧めされていました。「どこの銀行とどう付き合う」というモデルケースがありましたら教えていただきたいです。

田原: 政府系金融機関の日本政策金融公庫でまず借りていただいて、二つ目に関しては近くの信用金庫とか信用組合など、比較的小さい所と取引していただきたいです。

日本政策金融公庫は国の機関ということで「保証協会」という概念はないのですが、信用金庫は民間企業ですから、「何かあったら私たちが負担しますから、積極的に融資をしてくださいね」という保証協会があります。彼らのおかげで民間の金融機関が創業融資を積極的に行えるわけです。

一方で、信用金庫で融資を受けるときはこの保証協会の審査があります(※)。審査に通ればローンを組めるし、通らなければお金を借りられません。

なぜ日本政策金融公庫と民間の信用金庫・信用組合の二箇所で借りていただきたいと言ったかというと、国(日本政策金融公庫)の審査と民間金融機関の保証協会の審査に通っておくと、相談先が二つになるんですよね。そうすると二度目以降の融資の審査に通りやすいんです。何かあった時に助けてくれるかもしれない場所は複数用意しておいた方がいい、ということです。それぞれに融資を受けて、両方と取引実績を持っておくことをおすすめしています。

※信用金庫との取引実績がつくことで、保証会社を経由せずとも融資をしてくれるケース(プロパー融資)もあるが、創業時の融資では、基本的に保証協会を経由した融資となる。

銀行からの融資の他に、投資家から出資を受ける創業者もいます。融資との組み合わせ方についてアドバイスをいただければと思います。

田原: 投資家からの出資というとベンチャーキャピタルやエンジェル投資家だと思いますが、ベンチャーキャピタルについては創業したばかりでは考えない方がいいと思います。というのも、ベンチャーキャピタルはその事業に相当の成長性がないと出資してくれません。例えば過去にものすごい実績を持っている経営者でもない限り、創業初期から何千万円も出資してくれることは基本的にはないです。

エンジェル投資家も、本物の「エンジェル」もいれば、エンジェルの皮をかぶった「悪い投資家」もいるので注意が必要です。「株を50%渡せば300万円出資してあげる」と言ってくる人もいるので。

何も要求せずに出資してくれる本当の「エンジェル」が周りにいるなら出資してもらってもいいと思いますが、最初にエンジェル投資家に出資してもらい金融機関との取引を持たなかったことで、追加でお金が必要になった時に困ってしまうケースもありますし、株を渡すと売却されてしまうリスクもある。数百万円程度の調達であれば金融機関の融資の方が楽なんじゃないかと思いますね。

最後にこれから起業を考えている人や、起業した会社をもっと大きくしていきたい人に向けてメッセージをいただければと思います。

田原: 会社って、手元のお金を上手に使えばちゃんと利益が出るんです。その利益で借りたお金を返済して、その実績によって後々で追加の融資を受けられる。そうやってお金の好循環を作っていくことが起業家にとってはすごく大切になります。今回の本を通して、その好循環を生む資金調達戦略を解説していますので、ぜひ参考にして身につけていただきたいと思っています。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. 開業から1年で約3割、3~5年で約半分が淘汰される
  2. 事業拡大を目指す社長のための「賢い融資の受け方」38の秘訣
  3. 複数の金融機関からの借入が、「そう簡単には潰れない会社」をつくる

プロフィール

田原 広一(たはら・こういち)
田原 広一(たはら・こういち)

田原 広一(たはら・こういち)

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者
平成22年8月、資格の学校TACに入社し、以降5年間、税理士講座財務諸表論講師を務める。平成24年8月以降、副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。顧客の融資支援実績は、累計4500件以上(2021年7月末現在)。自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。実体験を踏まえたアドバイスは多くの起業家から支持されている。

賢い融資の受け方38の秘訣

賢い融資の受け方38の秘訣

著者:田原 広一
出版:幻冬舎
価格:1,650円(税込)

Amazonでみる