「神の子」の封印が解かれた時、宿命に導かれた冒険が始まる
天風

天風

著者:小山 結夏
出版:幻冬舎
価格:1,200円+税

Amazonでみる

本書の解説

知らない土地での探索や、思いもかけない出来事、そして予期せぬ出会い。
数知れぬ偶然に彩られた「冒険」は、何歳になっても心を熱くさせてくれるものだ。
ロールプレイングゲームなど架空の世界の冒険もあれば、知らない土地への一人旅や、ちょっとした非日常体験も、一種の冒険だ。そしてもちろん、本の世界での冒険だってある。

『天風』(小山結夏著、幻冬舎刊)は、日常からつかの間抜け出して、私たち誰もが持っている冒険心を刺激してくれるファンタジー小説。ある過ちによって封印を解かれた二人の「神子」である龍子と蛇子。そして、彼らの行方を追う人々の人生模様が絡み合い、物語が回る。

■神子が持つ「玉」に引き寄せられる人々 運命が交差する冒険小説『天風』の魅力

僧侶の理京は、師の言いつけに背き、古くからの伝説で「災いをもたらす」とされる「神子」を西の山から連れ帰ってきてしまう。龍子と蛇子という二人の神子は、それぞれが体内に「玉」を持っている。玉は神子が10歳になった時に完成するが、二つの玉が出会った時、地上に甚大な災害が起こる・・・。

しかし、神子とされる二人の子はまだ赤子同然。あどけなく眠っている二人を、理京の師は壺の中に二人を封印したが、ふとした行き違いから、壺は売り払われてしまう。

数年後、故郷を家出同然の形で出立した少女・琴芽は、山の中で獣に襲われ、一人の少年に命を助けられる。その少年こそ、壺の封印を解かれ、自由の身となり山に身を潜めていた蛇子だった。一方、神子のもう一人でやはり封印から解き放たれた龍子は、都を自らの手で支配していた。

神子にまつわる伝説は、そもそも広く知られていた。「玉」の持つ不思議な力に惹きつけられた人々が、その行方を追い求めていた。蛇子はある老人に育てられたが、その老人もまた蛇子の体内にある玉を手に入れることで、老いることのない命を手に入れられると信じていた。そのことに気づいた蛇子は自ら老人のもとを去った。

ただ、蛇子には幼馴染の爽馬という友人がいた。老人が玉欲しさに蛇子を育てていたのではない。玉を欲したのは、むしろ、長生きをしていつまでも蛇子と暮らしたかったからだ。爽馬はそう言って、蛇子の誤解を解く。蛇子は自分を恥じて、老人を探す旅に出ることを決意する。広い世界を見たいと願っていた琴芽とともに。

まだ見ぬ世界へと足を踏み出した二人。しかし、その背後に、静かに後を追う者たちがいた。ほかならぬ理京である。「玉」に導かれた蛇子と琴芽、そして理京の行く手に立ちはだかる龍子。純真であり勇敢な少年・蛇子に対して、どこか影があり、凶悪な性質をひそめもっているようである龍子。二つの玉が出会った時に何が起こるのか?

友情と冒険で彩られた本書は、日常生活のなかで忘れかけているワクワク感を思い出させてくれるはずだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■ハートフルで心躍るファンタジー『天風』はいかに書き上げられたか

『天風』につきましてお話をうかがえればと思います。昨年刊行された作品ですが、小山さんがこの作品で表現したかったもの、書きたかったことについてお話をうかがえればと思います。

小山: この作品は、まさにそれぞれの宿命が複雑に交差する物語を描いています。神子を連れ去った事により、大切なものを失ってしまった理京と、その神子である風丸の関係。命を救える玉を体に持つ風丸と、命が短い琴芽の関係。龍子を倒し、都を救おうとする斎と、龍子を連れ去ってしまった理京の関係。神子を放った爽馬と風丸、そして斎の関係。

個々がそれぞれに複雑な事情を抱えながら出会い、互いに信頼と絆を深めていくヒューマンストーリーです。

その他、旅の中で出会う人たちとの交流をハートフルに描いています。読者の方の心に残るように、物語の中には、人生を再生する力、広い世界へ踏み出す勇気、命の尊さなど、様々なメッセージが含まれています。

わくわくするような冒険の物語です。この冒険の舞台としてイメージされた場所はありますか?

小山: 実際に行った場所とかではなく、子供の頃に見た宮崎駿さんの作品や、世界名作劇場などがぼんやり浮かんでいたと思います。風景はアジアに近い国から、どちらかというとヨーロッパへと移動して行くイメージでしょうか。

この物語は冒険ファンタジーですが、おとぎの国を描いた物ではないので、臨場感を出す為にも、どこかにありそうな都、街、村というのを描きたかった。ただ、ファンタジーから離れすぎないようにする事も注意点でした。そして五人が見た事のない世界と出会うという設定にしたかったので、旅して行くにつれ、文化が発達しているのも意識しました。

旅の情景や戦いの場面などが臨場感があってよかったです。こうした場面を際立たせるためにどんな工夫をされましたか?

小山: 実はこの物語は戦いをメインとした冒険ファンタジーではないのですが、設定上盛り上がりの部分になるので避けられなかったというのが本音でしょうか。

物語を作る時は、風景も戦いのシーンも登場人物も全て先に映像として絵が浮かんでくるのですが、それをどうやって分かりやすく伝えられるかがポイントになります。

私は韓国の時代劇が大好きですが、そこからシーンが浮かんだのかは分かりません。正直、普段から戦闘物をよく見ている訳ではないので、戦いのシーンを描くのは、一番大変でしたし課題が多かった。

とにかくパッと浮かんだものを文章にしましたが、躍動感も必要ですし、読む人の頭にも場面が浮かんで来ないといけないので、情景などを作る時もそうですが、イメージがない状態で文章だけを読んで伝わるだろうかと読者の立場になって作りました。

登場人物それぞれが背景となる物語と宿命を抱えています。彼らそれぞれのキャラクターをどのように作っていかれたのでしょうか。各登場人物の生い立ちや物語がどれも魅力的でした。

小山: 作った当時、マンガ家を目指していた事もあり、キャラクター作りにはあまり苦労しませんでした。登場人物がどんな人間なのかを考え、その人格がどう作られていったのかを考えると生い立ちが浮かんできます。

物語の流れを考え、どんな登場人物が必要なのか、その役割を考えます。例えば引きこもりがちで、人間の世界にあまり慣れていない風丸を広い世界に連れて行ってくれる、好奇心豊かで行動力のある者が必要となりますので共に旅をする琴芽のキャラが見えて来ます。

龍子と戦う者、正義感のある者が必要となり、戦力として、一緒に戦ってくれる仲間もいります。斎の他の役割として、理京のよき理解者であり、引き立て役となります。爽馬は物語にユーモアを持たせる役割であり、脇役のように思われるが物語を動かす重要な人物です。

■様々な人間の運命が交錯する物語 ラストは…

小山さんが一番思い入れのあるキャラクターについて教えていただきたいです。

小山: 一番にとなると理京です。理京は自分と近いようで、真逆に遠い理想の人間像でもある存在です。

闇を抱えながらも、和氏やアルトのような旅で出会う人たちの心を救っていく場面では、理京の人柄の良さが表れており、でもその一方で、決してその場の空気で甘い事を言わない厳しさも兼ね備えています。

架空の人物ですが、こんな人が傍に居てくれたら、間違えずに歩いて行けそうな気さえしてくるキャラだと思います。

この物語は風丸と琴芽だけが主人公のように思われがちですが、実は理京を軸に描かれています。その部分にも意識して頂けると、物語に一層深みが増すと思います。

理京の人の良さが表れているもう1つに、全てを失う原因となった神子(風丸)に対して、恨んでもいい存在だったはず。だが理京は逆に風丸に救いを求め、希望を抱いていった。そして守ろうとしたのです。また、純粋な風丸も、そんな理京の心情とは裏腹に、理京を頼りにしている。そういった深くせつない部分も感じ取って頂けると、著者としては本望です。

自分の過失で神子が封印された壺を失ってしまった理京が最後の最後で救われたのが個人的に印象的でした。小山さんとしては、執筆しながらこの作品のラストシーンをどのようなものにしようと考えていましたか?

小山: 実はラストシーンは早い段階で思い浮かんでいました。そこから物語を拡げていったと言っても過言ではないくらいに。自分の過ちにより全てを失ったと信じ込んだ理京は、そこから天罰に捉われ、自分を責め続けて生きてしまいます。

しかし、感情すら失っていた理京は、風丸に出会い、そこに最後の望みをかける事になります。せめて、自分の行った行為が救われるよう、風丸は災いをもたらす生き物ではないと信じたかったのです。そして、期待どおり、風丸が優しい者だと知った理京は、風丸を愛しむようになります。風丸が守ろうとした琴芽も一緒に。だが天は、その二人をも理京から奪おうとした。なぜ自分ではなく、大切なものばかりが奪われるのか。理京は遂に天に怒りを覚えます。そして・・・。

ラスト、今までの出来事を振り返った理京は、そこで伝説がでたらめであった事と、自分が信じてとらわれていた物は、全て思い込みだったのではないかと悟ります。そして、ようやく天罰から解放されていくのです。

理京は幸せになれたのだろうか?そして、玉がもたらした物は、幸福か災いか?そこに答えはなく、人生観というものは、個人の捉え方によって変わってしまうものだ、という考えさせられるテーマを残して物語は終わります。

神子としての宿命を背負っていた風丸も、ラストで救われることになります。彼の宿命といえば「玉」ですが、この作品における「玉」、あるいは「玉に宿命づけられた風丸・龍子という存在」は、私たちが生きる世界の何かを象徴的に書いたものでもあるのでしょうか?

小山: 人生で大切な物はと聞かれると、お金と命と答えるかもしれない。本編では命の尊さの方が主に描かれている。

風丸は体の中に命の玉がある事により、自身は生きる為に生まれて来たんじゃないと、自分を責めてしまいます。しかし、理京や仲間との出会いによって、生きていいのだと気づかされ、そして宿命の中で精一杯生きるのです。

生まれつき死ぬ宿命にある人などいない。でも何の為に生まれてきたのか、何の為に生きているのかと、自分を責めて塞いでしまう人は少なくないと思う。そんな悩みを抱えている人に、前に進む勇気を与えられたらと思う。

龍子の存在もまた1つのテーマを残している。「龍子が都を支配していなければ、玉を廻って争いが起きていたのではないか」。果たして龍子は悪者だったのか。龍子は自由で謎めいているキャラなので、その真意は分からないが、考えさせられるテーマとなる。

そして、「天は何の為に神子に玉を持たせ地上に降ろしたのか」「玉がもたらしたのは、幸福か災いか」実はこの物語は平和をうたっただけのものではない。

例えば玉が「天災」を表しているのだとすれば、戦いの最後はハッピーエンドで終わっていると言えるだろうか。光が降り注がれた時に斎が放った「決して美しくない」という言葉には、人々をもてあそぶ天への怒りが込められている。

好きな作家や影響を受けた作家がいましたら教えていただきたいです。

小山: 特に影響を受けたのは、子供の頃に見た、宮崎駿さんの作品だと思います。

「ナウシカ」のファンタジーの中に社会問題をリアルに取り入れる発想は素晴らしいものがあり、「トトロ」は宮崎さんの作品の中では日常に近いですが、ただ散歩しているだけでも、ふとした時に夢の世界へ連れて行ってくれそうなワクワク感が好きです。

「魔女の宅急便」では、ヨーロッパに行けなくても、まるでその街の中で生活しているかのような臨場感が味わえ、主人公のキキの成長を描いていますが、当時、同じような悩みを抱えていた私にとって、勇気を与えてくれた作品でした。

「ホームズ」のような、ユーモア溢れる作品も好きでした。そして「コナン」や「ラピュタ」のあの壮大な世界観は、大人になった今でも、いつまでも私の心に残っています。当時、物語が人の心を大きく動かすのだと衝撃を受けました。

自分も、人の心に残るものを作りたい、そんな夢を抱いてマンガ家を目指すようになりました。「天風」も、その時期に作られた物語です。いつかマンガ家になって公表したいと思っていました。でも夢を途中で諦める事となり、ストーリーを描いたノートだけが残ってしまったのですが、登場人物に愛着もあり、捨てられませんでした。それからアニメやマンガから遠ざかる日々でしたので、大人になってからは、ピクサー映画以外はどちらかというと現実的な作品を見たり、小説を読んだりする方が多くなりました。

もし、次回作の構想などありましたらお聞きしたいです。

小山: 特にジャンルにはこだわっていませんので、書きたいと思った物を描こうと思っています。ファンタジーに限らず、現実的な物にも興味があります。現代社会をテーマにしたものにも挑戦してみたいですね。

実は今1つほとんど出来ている作品があるのですが、改善しないといけない点がいくつかあり、まだまだ編集段階です。「天風」とは全く違うジャンルで、初恋と友情を描いたものなのですが。

最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

小山: この作品は、私がまだ若かりし頃に作りました。遠い記憶になりますが、その時の自分がどんな状況で、何を思っていたのか、今でも鮮明に覚えています。

当時、なかなか前に進めず塞いでいた自分の背中を押すように物語は浮かんできました。とにかく消えて欲しくなくて、ひたすら思い描くままにノートに書き綴ったのです。そして、その物語を公表する事が私の夢となりました。

だいぶ時が経ってしまいましたが、ようやく形として実現する事が出来ました。私が長い間温めていた物語を一人でも多くの方々と共有したい。そう願うばかりです。何かに生き辛さを感じて生きている、若い世代の方から大人の方まで幅広い年齢の方に手に取って頂きたいです。

そして読んでくださった方の心に残り、生きる活力になればこの上ない喜びです。是非、感想聞かせて下さい。

(新刊JP編集部)

天風

天風

著者:小山 結夏
出版:幻冬舎
価格:1,200円+税

Amazonでみる