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本が好きっ! ブックナビゲーター矢島雅弘のインタビューラジオ

『矢島雅弘の「本が好きっ!」』は、ブックナビゲーター矢島雅弘が、話題の本の著者をゲストに招いてお送りするインタビュー番組です。本についてはもちろん、ゲスト著者の人となりや、成功体験、考え方、ビジネスのちょっとした気づきやなどを、矢島が自身の持ち味である軽妙な対談形式でお聞きし、リスナーの皆さまに「軽くて楽しい」けれども「知的」な時間をお届けします。

ゲスト: アニメーション演出家 布川 郁司さん

『「おそ松さん」の企画術 ヒットの秘密を解き明かす』

布川郁司さんと矢島雅弘ツーショット写真

「しろくまカフェ」のコンセプトにより蘇った「おそ松”さん”」

矢島: 早速なんですが、「ぴえろ」で制作された大ヒットアニメーション「おそ松さん」について伺っていきたいと思います。本の中で、制作側もここまでのヒットは予想外だったというお話がありましたけど、当初はどのような予測を立てて企画をスタートさせたんでしょうか?

布川: まず、28年ほど前に大人気だった「おそ松くん」を、もう一度今の時代に甦らせたいという思いはずっとあったんですよ。ただ、おそ松くんはホームドラマですから、普通であれば夕方の時間帯に放送した方が企画としては合いますよね。

矢島: 確かにプロデューサー的な視点だとそうなりますね。

布川: でもその時間帯は、なかなか枠が取れない状況だったんです。そこで数年前に弊社で制作した「しろくまカフェ」のコンセプトを採用する事にしました。「しろくまカフェ」は表情の少ないキャラクターを、個性の強い人気声優さん達に演じてもらった事で反響を呼んだ作品でしたから、「おそ松さん」にも六つ子一人一人に個性をつけてみようと考えたんです。

矢島: おそ松さん単体の企画術というよりは、過去の制作で培ってきたノウハウが活かされているんですね。放送時間の方は深夜に移りましたけど、一般的な視聴者のアニメの見方なども変わってきているんでしょうか?

布川: 深夜枠に移動させる事で、例えば……OLの方が上司に怒られたり、いじめられたりして、くたくたになって帰ってきた後、缶ビール飲みながらテレビをつけてみたら、なんかくだらないギャグアニメがやってて、いつの間にかそれにハマっていく……みたいなイメージを持っていました(笑)

矢島: なるほど(笑)軽めに仰いましたけど、特定のターゲットを狙うというのはマーケティング的にも正しいですよね!

布川: まぁただ原作そのものがあれだけヒットしていますし、「赤塚ギャグ」のベースは現代にもウケるという確信はありましたよ。根っこは外さないまま、今風に演出できたのが良かったですね。

布川郁司さん写真

チームメンバーの理想的な”キャスティング”とは?

矢島: 布川さんが「おそ松さん」を作った、みたいな言い方をしてしまいましたが、実際には複数人のチームでアニメーションを制作していく訳ですよね。大体何人くらいの方が制作に携わっていらっしゃるんでしょうか?

布川: 最近は大分デジタル仕様になってきましたが、それでも200人前後はいると思いますよ。

矢島: なるほど、結構な人数が見えるんですね~。その中で脚本とかは他のテレビドラマ同様、一本まるごと受けるのではなくて、一話毎に変わったりしますよね。そのような場合、作品の一貫性はどのように保っているんでしょうか?

布川: そのような質的な管理は大体20名くらいで行っています。例えば、良い監督であったり、良いキャラクターデザイナー、良い作画チーム等々……。チームメンバーをどうキャスティングしていくかが、制作プロデューサーの腕の見せ所の一つかもしれません。

矢島: やはりチーム作りはプロデューサーが行う事が多いんですね。布川さん自身、チーム作りへのこだわりや、何か秘訣みたいなものってあるんですか?

布川: 「おそ松さん」の場合は、監督の藤田さんをはじめ、大体30代中盤から後半のちょうど油が乗り切ろうとしている方達をスタッフとして集めたので、制作プロデューサーとしては結構良い配置付けでやれたなと思っています。また、最近はやってませんけど、監督を誰にしようかとか、ライターを誰にしようかと、いつも楽しみながら考えていましたね(笑)

矢島: キャスティングっていうと、声優さんや役者さんが思い浮かびますけど、その他のスタッフさん等もキャスティングしていらっしゃんたんですね。

布川: そうですね。それが上手くハマって、チーム全体が波に乗っていっていくと、面白い作品が出来ますし、逆にハマらないと、チームの士気も下がってつまらないものになっていきます。キャスティングってバランスが難しいんですよ。野球と同じで4番バッターばかり集めても勝てないんです。

布川郁司さん、矢島雅弘写真

「プロデューサー」としての使命

矢島: 布川さんはもともとアニメーターとしてこの業界のキャリアをスタートされていますよね。自分はクリエイター畑の出身なんだという事を本の中でも強調されていましたが、プロデューサーとクリエイターの兼業というのは難しいものなんですか?

布川: 個人的な作品を発表している方々は、兼業していらっしゃる場合もありますけど、テレビや映画などの大きな枠の中だと、この2つを兼ねるというのは簡単なことではありません。プロデューサーはクリエイターに良い仕事をさせて、良い作品を作って、なおかつヒットさせるという使命を受けている訳ですし、その中にはスケジュール調整や予算管理も入っていますから。

矢島: ふむふむ……なるほど。

布川: 一方で、クリエイターが才能を芽吹かせるには、プロデューサーとの出会いが大事な要素になります。ですから、クリエイターは良い仕事をしたいが故に、良いプロデューサーを見つけたいし、プロデューサーは良い作品を作りたいが故に、良いクリエイターを発掘して自分のチームに入れたいという互いのせめぎ合いがあります(笑)

矢島: つまり、結局のところは人間の力であって、「一緒に仕事がしたい!」と思わせられる人が強いんですね。

著者プロフィール

布川郁司

株式会社ぴえろ取締役最高顧問。1947年山形県酒田市出身。竜の子プロダクションでアニメーター・演出家として『タイムボカン』『ヤッタ―マン』などを担当。1979年株式会社ぴえろ設立。『うる星やつら』『魔法の天使クリィミーマミ』『幽☆遊☆白書』『NARUTO』『BLEACH』『おそ松さん』など多数のTVアニメ、映画の企画・制作に携わる。

パーソナリティプロフィール

矢島雅弘

1982年埼玉県出身。2005年よりスタートしたPodcasting番組「新刊ラジオ」のパーソナリティとして、これまで約1800冊の書籍を紹介。ビジネス書から文芸、サブカルなどさまざまなジャンルの本を簡潔に分かりやすいナレーションで解説し、支持を得ている。また、インタビュアーとしても確かな腕を持っている。モットーは『難しいことを、面白く分かりやすく』。

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