だれかに話したくなる本の話

『真珠婦人』菊池寛著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

まず初めに…菊池寛に謝らなくては!
気分が塞いだ時などスマホに保存してあるキクカンのつなぎの水着写真を見てはにやりと笑い、これを明日の活力としていたこれまでの私…ごめんなさいです!

商売上手で文章も達者な器用な人くらいにしか思ってなかった私は甘かった!
『真珠夫人』面白かったよ。600頁に近く分厚いのに一気読みだった。
なんとなく「奥さまの本」みたいな気がして避けていた私ですが、考えてみればバリバリ奥さまの今の私に響かないはずもなく(笑)
『貞操問答』を思い出したり(あぁ、これ面白かった!)、あと瑠璃子夫人がやたら美奈子さんを優先して可愛がるところとかなんとなく吉屋信子的展開を思ったり(そういうのはない!)たぶん『安宅家の人々』が浮かんだんだと思う。
私はこの蕗谷虹児の表紙しか知らなかったのですが(文春文庫だし)いくつかあるんですね。
TVドラマになってたとか知らなかったので、それっぽい女優さんの表紙とかちょっとびっくり。
うん、でも戯曲のようなすぐ映像が目に浮かぶ作品だった。

大阪毎日新聞、東京日日新聞に連載されたのは大正9年。
貧乏ながら気位の高さを失わない華族の瑠璃子。彼女は若く(多分最初は18くらい)周囲も注目する美しい容姿を持つ才気あふれるお嬢さん。
彼女をさして『真珠夫人』というタイトルになったと思う。
主人公登場の前に青年・青木淳の事故の場面がくるわけで、この彼の瀕死状態にたまたま立会い看取ったのが渥美信一郎。
すごくスピード感のある書き方で、最初のミステリー仕立てからもう「これは面白い」と思わせた。(本当にごめんね、キクカン)

大正乙女たちにはこの小説はどう受け止められたのでしょう。
今これを読んでも意見は分かれるところと思うのですが、瑠璃子さんは魅力的よね。(ほら気位の高い高貴な女性でも好感の持てる人はいるのだ)
ただ、男性への意趣返しにしても、なぜ青木ブラザースのような若い人まで入れたかなと思う。
若い人怖いよ、思いつめるから。瑠璃子さんをひどい目に合わせたのはオジサンだったのだから、サロンはオジサン限定にしたら安全だったか…
う~ん、そうでもないか…

私がおかしいのかもしれないけれど、私は信一郎の振りかざす正義がとっても怖かった。
美しい夫人にドキドキしてる辺りはそうでしょうねと思ったくらいだけど、残されたノートを読み混んだり、いやそれを責任とか言うんだったら早くご遺族に返せばいいのにと思った。
青年の最期に立ち会ったから自分には責任があるとかいいながら、あのタイミングで弟に話すのは無責任だったと思うなぁ。弟・稔だって、その日会ったばかりの他人から言われた言葉をまるまる信じてしまうなんて、冷静ではなかったからでしょう。
結果二人の人間が亡くなる。

解説は川端康成。全集編纂時に書かれたものかもしれないけれどこの解説も読み応えあり。満足。

(レビュー:michako

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真珠夫人

真珠夫人

真珠のように美しく気高い、男爵の娘・瑠璃子は、子爵の息子・直也と潔い交際をしていた。が、家の借金と名誉のため、成金である勝平の妻に。体を許さぬうちに勝平も死に、未亡人となった瑠璃子。サロンに集う男たちを弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化した彼女の心の内とは。話題騒然のTVドラマの原作。

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