「味は一流」でも失敗する 飲食店の鬼門「居抜き物件」にひそむ落とし穴
昨今のコロナ禍による経済活動の停滞で痛手を負った業界は数知れない。飲食店はその最たるもので、老舗レストランの閉店や大手外食チェーンの大量閉店がこれまでに報じられている。
ただ、極端に外を出歩く人が減り、街が閑散とした4月・5月も、比較的少ないダメージで乗り切った店もある。この記事の筆者が住んでいる東京都西部では、通勤客が主な客層だったと考えられる駅中、駅前の飲食店ほど客足が遠のく(営業自体を自粛する店も多かった)一方で、駅から少し離れてはいても、近隣に住宅街があり、近所の常連客を相手に商売をしている店は、時短営業など都の要請に従いつつも(もちろん、売り上げは落ちているのだろうが)、致命的な事態になるのは避けられている印象がある。
小さなコミュニティに根差し、リピーターとなる近隣住民を取り込むという戦略が、今回のコロナ禍で奏功した形だが、これは飲食店が成功するための王道の一つ。もちろん、勝ち方は一つではない。ただし、飲食店の場合「失敗する理由」はすべて同じ、とするのは飲食店コンサルタント・須田光彦氏だ。
■だからあの店は失敗する 「居抜き物件」は落とし穴がたくさん
「これをやるといい」という明確な正解はないが、「これはやってはダメ」という不正解はあるのが飲食の世界。その一つとして注意すべき点が、初めて飲食店を開業する人にありがちな選択肢の中に潜んでいる。「居抜き」である。
前の店の設備や内装、レイアウトをそのまま引き継いで使える居抜きは、初期投資が安く済み、家賃も相場より安くなる傾向があるため、借り手のメリットは大きい。ただ、考えなければいけないのは「その物件を借りて営業していた店は、成功しなかった」という点だ。何らかの理由でうまくいかなかったから、前の借り手は撤退したのだ。居抜きで店を持つなら、その理由を考えなければならない。
その物件は、そもそも集客しにくい立地なのかもしれないし、店の外観を整えるのに何らかの制約があるのかもしれない。レイアウトが自由にならず、必要な席数が用意できない作りになっているのかもしれない。このあたりの「前の借り手が成功しなかった要因」を明らかにする前に借りてしまうのはリスクが大きい。
■意外な制約も…。気を付けるべき居抜きのポイントは?
よくあるのは、物件が入るビルによっては看板が出せなかったり、看板の大きさに制約があるケース。そういった制約は一切ないのが理想だが、実際は何らかの制約があることの方が多いという。そういう物件を借りるなら、「看板をこう出せるなら借りる。もしこの通り出せないなら想定している売り上げに届かないので、家賃を少し安くしてほしい」という交渉をしてみるのもいい。
また、ビルの大きさの割にエレベーターが少ないビルも要注意。飲食店が集中するビルだと、客が帰る時間にエレベーター待ちの大渋滞が起きることになる。こういう点も、客から敬遠される要因になるようだ。
須田氏によると、居抜きで気をつけるべきはもう一点ある。厨房と客席の広さの割合だ。
食器や調理器具など、とかくモノが多くなりがちな厨房だが、かといって厨房を広く取りすぎて客席が狭い店だと、当然売り上げを立てにくい。容易に想像できることなのだが、それでもキッチンでの調理経験者であれば、料理を作っても作ってもさらに注文が積み上がる「恐怖経験」を多かれ少なかれ持っているもの。こういう苦労が体に刻み込まれた人ほど、独立する際に、必要以上にキッチンが広い居抜き物件を「理想的」と思いがちなのだ。
好立地なのに家賃が安くても、「厨房が必要以上に大きい」お店は借りてはいけないのです。(須田氏)
どんな繁盛店でも、「ピークのピーク」は1日のうち45分くらいのもの。その短い時間のために客席の狭い店を借りるのは悪手なのだ。
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須田氏の著書『絶対にやってはいけない飲食店の法則25』(フォレスト出版刊)には、飲食店を開業する人が陥る「やってはいけないこと」がまだまだたくさん紹介されている。
「誰にでもできる」と思われがち(実際には成功する人は限られているのだが)だからこそ、深く考えずに飲食で独立・開業する人は多いが、本書はそんな甘い夢を打ち砕く。本気でやりたいのなら、本書で書かれている内容はすべて頭に入れておくくらいの方がいい。
(山田洋介/新刊J P編集部)