『北斎になりすました女 葛飾応為伝』檀乃歩也著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!葛飾応為のことを初めて知ったのは、朝井まかて氏の小説「眩」でした。表紙の「吉原格子先之図」にとても惹かれました。「いつか、この絵を見たい!」と強く思いました。明治神宮にほど近い太田美術館にその絵は所蔵されています。葛飾北斎の三女である応為は、その名を栄女、酔女、辰女とも呼ばれ幼い頃から絵に親しんできました。 「この世は、円と線でできている」
小説「眩」には、北斎が娘の栄に胡坐の中で栄に絵を描いている文章から始まっています。
応為の作品としてもっとも知られる絵は、ボストン美術館所蔵の「三曲合奏図」です。応為の落款がある国立博物館所蔵の「月下砧打ち美人図」さらに無落款でありながら、絵の中に「辰」の隠し落款を見ることができる「朝顔美人」、落款がないものの応為の代表作として知られるメナード美術館所蔵の「夜桜美人図」などがあります。北斎の落款がありながら、実は応為が描いたのではないかと言われる絵の解説もあるのですが、応為はなぜ自分の落款を記さなかったのか。それは、北斎の落款を持った作品のほうが、高値で売れたからです。
北斎を支え、美人画、春画と描き続けた応為。90歳で北斎が亡くなるまで父と娘の生活は続いたと言われていますが、北斎の絶筆と考えられている小布の北斎館所蔵「富士超龍」は、応為が深く関わったあるいは、絵のほとんどを応為が描いたものではないかという指摘する研究者がいるそうです。その根拠が、とても興味深いものです。
絵を描くためには、お金に無頓着だった北斎。高価なベロ藍をふんだんに使った富嶽三十六景。シーボルトコレクションにも加わったとされる北斎と応為の合作の肉筆画。文章の中には、北斎と応為が生きた時代の歴史あり、そしてこの本の中で再び出会うことができたキャサリン・ゴヴィエ氏の「北斎と応為」など好奇心を充分に満たしてくれる素晴らしい一冊でした。
北斎の落款があるものの、実は応為作ではないかと言われる大谷コレクション蔵「蚊帳美人図」所在不明でいわくつきの人物金子孚水が関わったとされる「手踊図」など白黒で紹介されている作品は、そのどれもがそう言われれば、と思う応為の特徴「指先とほつれ髪」が見られます。この素晴らしい作品たちをいつか実際に観ることができたらと思います。
(レビュー:morimori)
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