『こんなに違う!?ドイツと日本の学校 ~「自由」と「自律」と「自己責任」を育むドイツの学校教育の秘密』和辻龍著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!以前から世界各国の学校教育比較には興味があったので、この本も大きな期待をもって手に取った。
私立中高一貫校で数学を教えていた著者が一念発起してドイツのクラウスタール工業大学に留学し、エネルギー工学の博士課程で学ぶ傍ら、同大学の日本語講座を担当したりするだけでなく、日本の中学1年にあたるギムナジウム7年生に「生徒」として編入し、子どもたちと一緒に机を並べ、文字通り身を以て、日本とドイツの学校の違いをレポートする。
その型破りなチャレンジ精神には驚かされるし、「学校行事がない」「修学旅行がない」「宿題がない」「校則がない」「掃除がない」とか「授業中の飲食が可能」であるとか、「教師もしっかり休み時間や有給休暇も取る」、「文房具」をめぐるあれこれなど、「違い」に焦点を当てたレポートは興味深いが「違い」の意味を深く掘り下げるところまではいかないところがもどかしい気も。
たとえば「掃除がない」では、「生徒の仕事はあくまでも勉強であり、掃除は生徒の仕事ではない」からと紹介しているが、それって掃除を仕事としている人の権利を侵さないという側面もあるのでは?
ギムナジウムで日本を紹介する授業をいくつか受け持つことになった著者が、その一環として日本式の「避難訓練」をとりあげたというくだりでは、こどもたちが、普段からニックネームで呼び合っていて、名簿順に並ぶことが出来ないとか、一列に並んで移動することができないなどという場面を面白おかしく紹介している。
なるほど確かに違うんだなあと思いつつも、「避難訓練」の本質はそこなのか?とついつい突っ込みたくなってしまう。
頻繁に「自己責任」という言葉が登場するのも気になるところ。
化学の実験の前に注意事項が書かれた書類が配布され、生徒ひとりひとりが末尾の「理解した」にチェックを入れ、サインもする。
契約の練習という側面と、自分で自分の行動に責任をもつという自覚を促す教育は非常に興味深く、それ自体には素晴らしいことだと思うが、そういうあれこれを「自己責任」とひとくくりにするのは、昨今、日本の社会で取りざたされている「自己責任」論との兼ね合いで考えるとなんだか無防備な言葉の使い方だという気がしてならなかった。
もっとも著者は現在教壇に立つと同時に企業研修講師などとしても活躍されているとのことなので、あるいはあえて自覚的につかっているのかもしれないが……。
(レビュー:かもめ通信)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」