だれかに話したくなる本の話

『恐るべき子供たち』コクトー著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

2部構成の小説で、思春期の姉エリザベート、弟ポール、ポールの友人ジェラール、第2部でエリザベートが働きだした時に知り合った孤児アガートの四人を中心とする物語。

学校でのポールのあこがれは皆のリーダーであるダルジュロスである。だが雪合戦で彼が石を入れた雪玉をポールに投げつけた事で元々病弱なポールは学校に通えなくなる。物語が始まった時にはエリザベートとポールの父は死んでおり母も病床にあった。暫くして母も死に、親の友人だった医者、そしてジェラールの唯一の身寄りである独身の叔父の好意でふたりの姉弟は暮らしていく。医者はマリエットと言う看護婦を派遣し、母が死んでからは家政婦として一家の家事の面倒を見てやっていた。だが、時々ジェラールも加わるその暮らしは爛れたものだった。

3年後、エリザベートは、突然働きだした。専ら弟と家で暮らしてきただけの言わば「引きこもり」生活を送って来た彼女に社会性があるはずがない。ジェラールの知り合いの女洋裁店を紹介してもらい売り子をしたいと言うが、彼女に出来るのは美貌を活かしたマネキン程度だった。そこで彼女に唯一心を許したのがアガートだった。そのアガートは、ポールの学校時代の憧れダルジュロスの妹と言っても良いほどそっくりだった。

そのうちアガートもエリザベートとポールの家に来るようになった。ジェラールは会社を経営する叔父の知り合いのミカエルと言う金持ちの青年をエリザベートに紹介する。エリザベートにほれ込んだ青年は、彼女と結婚しエトワール広場に広壮な邸宅を提供したが、ミカエルはエーズに建築中の家を検分に行く途中で事故死する。莫大な財産を相続したエリザベートは間もなくポールを呼び寄せる。エトワール広場でも元の家の様に、ジェラール、アガートが加わった爛れた生活が送られる。

ある時、ポールはアガートに愛を告白する手紙を書くが、それを知ったエリザベートはアガートとジェラールを結婚させるように謀り、弟にはアガートの気持ちは自分が知っているから、男らしく黙っているようにと言った。だが、ジェラールがダルジュロスと会い、彼がポールにと言付かったお土産をきっかけに・・・。

詩人コクトーの残した数少ない小説のひとつ。登場場面は僅かしかないダルジュロスが、姉弟を翻弄する精霊の様な働きを示す。アガートはダルジュロスの鏡の様に思えたが、実際にはこの小説の中ではジェラールに次いで神秘性をまとわない普通の人間として描かれる。ゴールディングに孤島に残された少年たちが残酷性を発揮する「蠅の王」と言う小説があるが、本書の「子供たち」はあまりにも大きい。

その割には、大人びた面がなく、読んでいて戸惑う部分も。本書はコクトーがアヘン中毒に浸りながら17日で書き上げたとあるが、パリと言いう現実の舞台に、マリエットやジェラールの叔父など現実的な人物を配置しながらも神秘性をまとった不思議な小説である。

(レビュー:ゆうちゃん

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恐るべき子供たち

恐るべき子供たち

詩人コクトー(1889‐1963)の手にかかると、子供の世界も、ギリシア悲劇を思わせる格調の高さをもって、妖しく輝きだす。白い雪の玉で傷ついた少年ポールが、黒い丸薬で自殺するという幻想的な雰囲気のなかに登場する少年少女は、愛し、憎み、夢のように美しく、しかも悲痛な宿命をになって死んでゆく。

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