『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』宮部みゆき著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!新年一冊目のレビューは、宮部みゆき氏の「黒武御神火御殿」です。500ページ以上もある長編ですが、心に残る良いおはなしばかりでした。
神田三島町にある袋物屋の三島屋主人、伊兵衛の思いつきで始まった百物語。第一話から姪のおちかが「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」という決め事のもと、聞き手となっていましたが、この春ちかが嫁ぎ、聞き手が伊兵衛の次男、富次郎に替わりました。
「泣きぼくろ」の語り手は、富次郎の幼馴染み豆源の八太郎です。同じ手習い所に通っていたのですが、八太郎は養子にいったので一年足らずの習子仲間といったところでしょうか。その八太郎、実家は評判の豆腐屋でした。大所帯の豆源では、長男夫婦、次男夫婦に加え次女、三女と出戻りの長女、八太郎とで皆が協力し両親と豆源を支えていました。働き者の一家に起こった椿事を、八太郎が語ります。耳を傾けてジックリ聞いているととても怖い話なのですが、話終わって帰り際、三島屋を訪れた八太郎の妻を富次郎が、見たときの驚きがちょっと笑えます。怖い話のあと、ホッとするシーンです。
「姑の墓」三島屋恒例の花見の話から、故郷の絶景の丘について話し始めたお花さん。富次郎の母と同世代か少し若いかくらいの女性です。お蚕様が盛んな山里の生まれだとか。毎年墓所の花見に、実家の父や祖父、兄は行くことができるが女性の参加は御法度だったという。その奇妙な所以が、驚きと恐怖です。
三人目の語り手は、火消し?と思われるほど引き締まった体格の亀一さん。天神裏の亀一と言われるほどの手におえない子どもだったとか。火消しの頭の家で、下働きをしていたものの何か粗相があると飯抜きや、阿仁さんたちからいじめられたり、からかわれたり、ある時ちょっとしたトラブルから脱走してしまいました。その走りっぷりを買われて、次の奉公先は飛脚問屋に。真面目に働き、家族もできて幸せな日々を送っていたけれど・・・「同行二人」は、恐いけど、気の毒で悲しくて、でも心揺さぶられる話でした。
タイトルにもなっている「黒武御神火御殿」は、異世界へ行ってしまった5人の話を、梅屋勘三郎が語ります。三島屋の日常を想像すると平和な印象が伝わりますが、時は江戸キリシタン禁止令が出ている時代。迫害され命を落とした人はさぞや無念であったろうと想像しつつ、この奇妙奇天烈な神隠しの描写が、鮮烈に心に刻まれました。神隠しにあったと思われる5人のその後は、いったいどうなったのか。人は皆、多かれ少なかれ罪を犯しているけれど、命を奪われるほどのことなのだろうかと物語の進行と同時に考えさせられました。
三島屋変調百物語六之続は、四話。これまでの話を合計すると二十八話です。百話までまだ先はありますが、これからも三島屋変調百物語が続く限り楽しみにしたいと思います。今年も、楽しく素晴らしい本との出会い、そして素敵なレビューとの出会いがありますように。
(レビュー:morimori)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」