だれかに話したくなる本の話

グレタさんも…2019年に世界を騒がせたフェイクニュースまとめ

今年も残すところあとわずか、ということで一年を振り返る時期である。

個人的には(決して今年だけの話ではないのだが)2019年は「フェイクニュース」という単語を以前にもましてよく耳にする年だったと思っている。

一国の大統領が不都合な報道を「フェイクニュースだ」と言い張り、別の国では「言論の自由を抑制する」と非難ごうごうの「フェイクニュース防止法」なる法律ができた。どうにも権力者が自分に都合のいいように使っているように見えるこの単語であるが、SNS全盛の今、それだけ多くのフェイクニュースが出回っているというのもまた事実なのだ。

そこで今回は、今年SNS上で拡散されたフェイクニュースをいくつか集めてみた。あなたはこれを「悪質」とみるか「ただのイタズラ」と見るか?

■グレタ・トゥーンベリさんの食事を見守る貧しい子どもたち

9月に行われた国連気候アクション・サミット2019での演説が世界的に注目され、米TIME誌が「今年の人」に選んだスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん。その活動に賛同する人を集める一方で、心ない中傷やフェイクニュースの標的にもなっている。

表紙

ブラジル大統領、ジャイル・ボルソナロ氏の息子で政治家のエドアルド・ボルソナロ氏が自身のツイッターで、列車の中で優雅に食事をとるグレタさんの写真 を投稿したのは9月26日のこと。窓からは葦を組んだ粗末な家に住み、裸同然の格好をした貧しい子どもたちがそれをうらめしそうにのぞき込んでいる、という構図だ。ボルソナロ氏はこのツイートで「この少女はジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団に資金援助を受けている」と訴え、広く拡散された。

表紙

しかし、これは合成写真を使ったフェイクだということがわかっている。元の写真はグレタさん本人が今年1月にデンマークから投稿 したもので、窓の外には木々が映っているだけだ。また、本人は「私の後ろには誰もいないし、誰も私にお金を払っていないし、誰も私を利用してはいない」とボルソナロ氏の主張を一蹴している。

■イランテレビ局は女子陸上選手の肌を黒く塗りつぶす?

9月から10月にかけてカタール・ドーハで行われた世界陸上でも、フェイクニュースが拡散される出来事があった。

女子100mのレースを中継していたイランのテレビ局が、ユニフォーム姿の選手たちの肌が露出している部分を黒く塗りつぶして放送した、というものだ。

イスラム圏だけあって肌の露出には厳しいイラン。いかにもありそうなことではあるが、これもフェイク。イランではこのレースは中継されなかった。

表紙

ちなみにこの映像は過去にイランで中継されたものでも、今年の世界陸上のものでもなく、2013年のダイヤモンドリーグの映像に何者かが加工を加えたものだという。

■フランス大統領もひっかかった

先述のグレタさんが象徴的だが、今年は地球の環境問題が大きくクローズアップされた年だった。なかでもアマゾンの熱帯雨林で起きた大規模火災は世界的に報道され、多くの人が気を揉んだ出来事だった。

表紙

SNS上ではこの火災についての多くの投稿で溢れかえったが、中には間違った画像やデータも多く混じっていたようだ。それをうっかり拡散してしまったのがフランス大統領のエマニュエル・マクロン氏。「私たちの家が燃えている」 というコメントと共に投稿した画像は、確かにアマゾンの火災のものだが、今年起きた火災ではなく1989年に撮影されたものだった。

フェイクニュースがはびこる原因の一つには、誰かを貶めたり、世論を意図的に誘導したりという明確な作為があるものだけでなく、上の例のマクロン氏のように悪意がない(ように思われる)場合があることだろう。

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人刊)は「人は見たいように見る」という古代ローマの軍人・政治家のユリウス・カエサルの言葉を引いて、私たち誰もがもつ認知バイアスがフェイクニュースの拡散現象の根底にあると指摘している。

私たちは、自分の意に沿う情報や自分の好きな人が流した情報に対して、チェックが甘くなる。そのことはSNSに触れるなら常日頃から心にとめておくべきだろう。そして、もちろん悪意を伴うフェイクニュースの拡散はもってのほかだ。

2020年は事実が事実として、嘘は嘘として適正に扱われることを願う。

(新刊JP編集部・山田洋介)

フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ

フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ

2016年、米国大統領選挙を契機に注目を集めるようになったフェイクニュースは、いかにして拡散するのか。本書ではこの複雑怪奇な現象を「計算社会科学」という新しい分野から読み解く。偽情報を信じてしまう人間の認知特性、その情報を拡散させる情報環境の特徴、情報過多と注意力の限界などの側面からフェイクニュース現象の全体像を描き出し、メディアリテラシーやファクトチェックによる対抗手段の有効性を検討。大量の情報が飛び交う現代、偽ニュースに惑わされないために必読の1冊!

この記事のライター

山田写真

山田洋介

1983年生まれのライター・編集者。使用言語は英・西・亜。インタビューを多く手掛ける。得意ジャンルは海外文学、中東情勢、郵政史、諜報史、野球、料理、洗濯、トイレ掃除、ゴミ出し。

Twitter:https://twitter.com/YMDYSK_bot

このライターの他の記事