だれかに話したくなる本の話

人生に疲れたときに聞きたい!本当に心に響く「希望の言葉」とは?

世の中には、名言や金言と呼ばれるものがゴマンと溢れている。
しかし、自分の仕事や人生に影響を与えて心に響き続けるのは、偉人や賢人のカッコイイ言葉ではなく、とても身近な人の何気ない一言だったりしないだろうか?

コピーライターから詩人に転身し、2012年に詩集としては異例の30万部のベストセラーを手掛けた白井明大氏の『希望はいつも当たり前の言葉で語られる』(草思社刊)は、平凡でありふれてはいるが、自分の足元を見つめさせてくれるような言葉が詰まったエッセイだ。

本書には、著者自身が受け取った心に希望を灯す言葉とそれにまつわるエピソードがつづられている。その中から、仕事や人生に効く「希望の言葉」をいくつか紹介してみよう。

■「誰かが見ている」

自分なりに必死に仕事をしていても報われないことはいくらでもある。

成果が思うようにあがらない、小さな仕事しか回ってこない、失敗ばかりしてしまう……。そんなときには真っ暗闇のトンネルでもがくような心苦しさを感じるだろう。

著者も、駆け出しのコピーライターの頃、ひとつのコピーをつくるのに失敗を重ね、無駄に時間ばかり使っていたという。やっとOKが出ても、パンフレットにひしめく商品写真の下に添えられた小さな数行の説明文でしかない。

そんなとき、友人のデザイナーから言われたのが、

「どんな仕事でも手を抜かずにやっていれば、きっと誰かが見ていてくれる」

という言葉だった。

誰かが見てくれるから必死にやるわけではないが、誰かが目にする可能性のある仕事をするなら、やれるだけのことは全部やりたいーー。友人の言葉は、著者の心を奮い立たせる魔法の言葉になったと。

今でも、時折思いがけない幸運が舞い込むことがあると「この言葉は本当だった」と思うという。
もし、仕事で報われないと感じたら、思い出したい言葉だ。

■「下には下がらない」

仕事でも人生でも、ある瞬間が充実していればいるほど、「今が自分の人生のピークなんじゃないか」と不安になるときがある。

詩人として活動を始めていた著者は、韓国の済州島で開催された国際文化フェスティバルを訪れた。そこで様々な国の詩人とリーディングをするなど、充実した時間を過ごす中で、ふと「こんなことって、この先体験することがあるのだろうか?」と口にしたという。

すると、それを聞いたある楽器奏者は、静かに、だが、きっぱりと答えた。

「いちど段階が上がったら、そこから下には下がらないものです」

この言葉を著者は「経験を積み、鍛錬を重ね、ひとつ上の世界に足を踏む入れた人にとって、そこより下の世界は、後戻りすれば帰れる場所なのではなく、足元に積み重なった地層のひとつ」だと解釈する。

年を経ると、体力が落ちたり、頭の回転が鈍ったりすることもある。しかし、続けてきたことに対する理解の深まりや人間の器としての成熟度は、下げようと思って下がるものではないだろう。

そうであるなら、停滞や限界、慢心や堕落などに囚われず、迷いなく真っ直ぐ進むことで、いつまでも「人生のピーク」を迎えることができるのかもしれない。

■「当たり前じゃないか」

許されるという体験は、じつはとても稀有なことだ。

著者は28歳でコピーライターとして入社した2カ月目に、昼の12時に起きるという大遅刻をしたことがあったという。

上司からの電話で目を覚まし、「寝坊しました」と伝えるしかなかったが、続けて「いまから、行ってもいいですか」と電話をくれた上司に言った。
すると上司は、間髪入れずに

「当たり前じゃないか」

と言ってくれたという。

なぜそんなに簡単に許されるんだと思うかもしれないが、著者はその上司の言葉を聞いたとき、自分が社会に受け入れられていることを強く感じたという。

承認欲求という言葉が巷に広がってかなり経つ。だが、そのことを改めて実感する機会はそう多くないのではないだろうか。

著者は、「ゆるされる。受け容れられる。そんなことが一度でもあったら、心というのは、大きく安心する」と語る。それは、疲れていたり心が苦しかったりするときに、もっとも必要なことだ。

「当たり前」の言葉に耳をすませば、そんな心の安心を得られるかもしれない。

 ◇  ◇  ◇

いかがだろうか。言葉としては平凡かもしれないが、本当に自分を救ってくれる言葉は、身近な人から、直接自分に向けて語られたものであるほうが、心に響くはずだ。

本書は著者の体験談がベースになっているが、一冊通して読むことで、自分自身にとっての「希望の言葉」を自分の人生から掘り起こすきっかけにできるかもしれない。

(ライター:大村佑介)

希望はいつも当たり前の言葉で語られる

希望はいつも当たり前の言葉で語られる

言葉をめぐる経験をやわらかな筆致でつづった、心にしみるエッセイ!

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

このライターの他の記事