なぜ、人は傘を置き忘れてしまうのか?
電車に傘を置き忘れてしまったり、待ち合わせの時間に遅れてしまったり、うっかりミスをしてしまった経験は誰にでもあるだろう。しかし、これを「うっかり」で済ませていては同じミスを何度も繰り返してしまう。
「なぜ傘を置き忘れてしまうのか」という事象は行動分析学を使うと、その原因が見えてくるのだ。
2010年に出版された『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか』(島宗理著、光文社刊)は、行動分析学を使って日常的な「行動のなぜ」を目で視てわかるように描き出す「視考術」という手法で人間行動の本質を探る一冊だ。
■なぜ人は傘を忘れてしまうのか?
さて、「ひと雨五百本」と言われるほど、駅や電車での傘の忘れ物はダントツに多いという。
なぜ、人は傘を忘れるのか?
まず、雨が降っていれば傘を置き忘れる人はいないだろう。なぜなら、傘がなければ雨に濡れてしまうからだ。それは「傘を持っていくことで雨に濡れずにすむ」という強化随伴性があると言うことができる。
他にも随伴性を強化するものがある。例えば、「またなくしたの?」と家族から怒られたりすることなどだ。
どれだけ随伴性を強化できるかは傘の価値や家族からの苦情の頻度や程度にかかってくる。
雨が降っているときには、ワンコインのビニール傘でも一時的に500円以上の価値がつくが、雨が降っていなければ、傘の道具としての価値は急降下する。また、これほどかさばる荷物はそうそうない。
というわけで、濡れた傘を持ち歩く行動は、こうした内在的随伴性によって自動的に弱化されている可能性があると著者は指摘する。
■傘を忘れないようにするための方法とは
では、どうすれば傘を忘れないようにできるのか。
持ち歩く行動を引き出すには、そのための環境を整えるという方法を提案する。
まず、傘の存在を示す刺激を追加することだ。手すりにかけず、手に持つ。ストラップを傘につけて、手首にかけておく。次に、傘を持って出かけるときには必ずこれらの動作を繰り返す。
著者は指摘する。大切なことは、「傘の置き忘れという問題の原因と解決策を考えるのに、記憶力や注意力といった個人の能力や記憶のメカニズムに関する理論は必要ない」と。
つまり、環境を適切に整えれば、行動は変わるのだ。
傘忘れや遅刻など、うっかりミスを自覚している人は、行動分析学から問題を解決していく本書を読んでみてはどうだろう。傘を置き忘れることもなくなるはずだ。
(新刊JP編集部)