【「本が好き!」レビュー】『東京のちいさな美術館めぐり』浦島茂世著
提供: 本が好き!この秋、上野の森美術館ではフェルメール展が、国立西洋美術館ではルーベンス展が開催され、上野の美術館は人で溢れそうです。ただ、混んでいる企画展の場合、作品を見に行ったのか、人を見に行ったのだかわからなくなることもあるはず。
美術との出会いはどこまでも「個人としての体験」であり、作品が有名なのかどうなのかとは別の話。
この本を片手に上野に行くなら、洋館と日本家屋が併設されているいかにも明治・大正の建物に唸ってしまう「朝倉彫塑館」や若手の現代アートを見られる「スカイ・ザ・バスハウス」(元銭湯)や「3331アーツ千代田」(元小学校)に足を向けるのもおすすめです。
この本で特筆すべきは,「スカイ・ザ・バスハウス」「3331アーツ千代田」に加え、アラタウノ,山本現代などが入っている「白金アートコンプレックス」や「ナディフアパート」といった従来なら「ギャラリー」の枠組みに位置づけられる現代アートスペースまで「美術館」として入れていること。美術と出会えるのは美術館だけではないということを読者に知らず知らずに伝えてくれています。
ところで、表紙はあきる野市深沢にある「深沢小さな美術館」。
『ぷりんぷりん物語】の人形も作成した造形作家・友永詔三さんのアトリエ併設美術館。深沢地区には彼が作った赤や黄の帽子をかぶった妖精たちが来訪者を迎えてくれます。美術館までは徒歩で山道を50分(バスは通っていません)かタクシー10分。この本で紹介されている106館のうち最も行くのが困難な美術館と場所を知っている私は断言しますし、これを表紙に持ってきた著者・編集者に頭が下がります。
読み込むというより、この本をバッグに入れて気になった美術館に足を運びたくなる1冊。
(レビュー:祐太郎)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」