創作のモチベーションは「知りたい気持ち」村田沙耶香・新刊『地球星人』を語る(2)
出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。
第103回目となる今回は村田沙耶香さんが登場してくれました。
村田さんといえば94万部を突破した芥川賞受賞作『コンビニ人間』が知られていますが、最新作『地球星人』(新潮社刊)はそれを超える衝撃作。地球は「人間工場」で、人間は繁殖のための道具。私たちが「普通」だと思っている営みが、村田さんにかかれば奇妙で巨大でグロテスクなシステムの回転に思えてきます。
『コンビニ人間』の芥川賞受賞後、どのような道のりを経てこの作品ができあがっていったのか。そして、作家を志したきっかけや本との思い出などについてお話をうかがいました。(インタビュー・記事/山田洋介)
■デビューから15年 創作のモチベーションは「知りたい気持ち」
――『地球星人』からは、「普通であること」を強要する社会への反発を強く感じました。村田さんが小説には普遍的なテーマはあるのでしょうか。
村田:「違和感」と「性愛」は自分の中の大きなテーマとしてあると思います。ただ、そのテーマを書こうと思って小説を書いているわけではなくて、物語を作ると登場人物がそれぞれに抱えているものとして自然に出てくることが多いですね。
――それは村田さんご本人が持っているものとは無関係に、ということですか?
村田:もちろん生活の中で変だな、とかこれはどうしてなんだろうと思うことはありますが、結構ボーっとしている人間なので自分の小説の主人公たちのように苦しい感じではないと思います。
それに生身の人間ですから、本当に感じている違和感となるとなかなか物語には落とし込み切れない部分もあります。
――2003年のデビューから15年が経ちました。創作を続けるモチベーションはどんなところにあるのでしょうか。
村田:単純に小説を書くのが好きですし、書くことで何かを知ることができると思っています。よく私の小説は怒りが原動力になっているんじゃないかと言われるのですが、そんなことはなくて、書くことで何かを知りたいという気持ちの方が大きいです。その気持ちがモチベーションかもしれません。
子どもの頃、大人はうわべの美しい世界に惑わされて本当のことをしゃべらないんだと思っていたのですが、図書館に行って本を読むと、そうではない言葉がありました。多分、うわべの言葉ではない、本当の真実のようなものが小説の中にはあるとどこかで信じているんだと思います。そういう真実を読むことだけではなくて書くことでも知ることができるんじゃないかという気持ちですね。
――今回の作品ではどんな発見がありましたか?
村田:書きながら、私たちのことでもある「地球星人」という生き物の外側に出るのは本当に難しいなと思っていました。ただ、作中に「ポハピピンポボピア星人」という宇宙人の視点を入れているのですが、その目線で地球星人を見るとものすごく変な生き物に映ります。地球星人のそういう奇妙な性質が改めて愛しいなと思えるようになりました。前よりも人間が好きになったと思います。
――「ポハピピンポボピア星人」から見た「地球星人」の描写は、社会の中の同調圧力や「自分と同じではない人」への不寛容さなど、人間や人間社会のネガティブな側面として語られることが多い部分です。それを好きになった。
村田:そうですね。画一的に洗脳されているような感じがすごく好きです。つくづくおもしろい生き物だと思っています。
――こうした描写は、先ほどの言葉を借りるなら地球星人(人間社会)への「怒り」からくるものかと思っていましたが、そうではなかったんですね。
村田:基本的には怒っていることはほとんどありませんし、自分の作品は怒りが原動力になっているわけでもありません。人間はおもしろいな、かわいい生き物だなと思っています。
作中で奈月が受けているような性的被害に対してはすごく怒りを感じるのですが、登場人物は作者の感情を発散する道具ではありません。だから、たとえ私が個人的に怒りを持っていることを書くとしても、登場人物と一緒にかっとならないように、ちゃんと作者の目で物語を見るように気を付けていました。
――安倍公房の『人間そっくり』と共通するものを感じました。読んでいるうちに「人間が人間たるゆえん」がわからなくなってくるような。
村田:好きな小説なのでうれしいです。会話をしているだけなのに自分が「人間」なのか「人間的なもの」なのかが曖昧になってくるのがおもしろいですよね。特に意識したわけではないけれど、影響は受けているのかもしれません。
第三回 ■『異邦人』のムルソーは「地球星人」ぶらない につづく
第一回 ■「小説の先がどうなるのかは自分の手を離れたところにある」 を読む