日本でも注目! フランス発の認知症ケア「ユマニチュード」とは?
厚生労働省によれば、認知症の高齢者(65歳以上)は約462万人と推計されており、さらに「正常でも認知症でもない」という中間の段階の症状(MCI)を持つ人は、約400万人いると言われています(いずれも平成24年のデータ)。
認知症の人を家族が介護をする際、その人の過去を知っているぶん、認知症の症状が進む中で相手にどう接していいのか分からなくなってしまい、混乱と不安に陥ってしまいがちです。
そうした中、フランスで40年近く実践されてきたケアメソッドが今、日本で注目を集めており、NHK「あさイチ」などで取り上げられるなど話題になっています。
その手法とは**「ユマニチュード」。
「ユマニチュード」とは「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語の造語で、「人とは何か」を考え続ける**ケアのメソッドと言えます。
考案者は体育学の専門家であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏。彼らはケアの現場で経験を積む中で、「なぜケアがうまくいかなったのか」「なぜ今回はうまくいったのか」と検証を重ね、ケアの技術を開発します。
その結果、辿り着いたのが「ユマニチュード」でした。このケアを実践するうえで重要なのは、**「人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在できる」**という考え方に基づいて行動すること。そして、介護をする人も受ける人も自由で平等であると考えれば、互いを尊重する気持ちが生まれ、両者の間によい関係が生まれます。介護を通じて相手とよい関係を結ぶことが、介護をするうえでとても大切なことなのです。
■介護を受ける人に「あなたが大切だ」と伝えるための4つの柱
このユマニチュードは、介護をする際のコミュニケーションのあり方とも言えそうです。
ジネスト氏、マレスコッティ氏、そしてユマニチュードを日本に紹介した本田美和子氏による『家族のためのユマニチュード』(誠文堂新光社刊)には、「あなたのことを大切に思っているよ」と相手に伝えるための技術として、「ユマニチュードの4つの柱」が紹介されています。
(1)見る…相手の視野に入って話しかける。正面から、近く、水平に、長い時間見る。それが「あなたのことを大切に思っています」と伝えるメッセージとなる。
(2)話す…低めの声で、穏やかに優しく、前向きな言葉を使い、とぎれなく話す。「無言」は存在が否定されているように感じさせてしまう。ケアの最中は言葉が少なくなりがち。いつもの3倍話しかけるくらいの気持ちでやってみる。
(3)触れる…触れる手は相手にメッセージを伝えている。たとえば、腕を上からつかまれると罰を受けるように感じられるし、下から広い面積で支えるように腕に触れられると、信頼と安心を感じる。
(4)立つ…1日20分立つことができれば寝たきりにはならない。一度に20分間立ち続ける必要はなく、日常の中で1日合計20分、立つことを目標にする。
実はこの「4つの柱」で言われていることは、私たちが普段大切な人に対して無意識にしている行動だといいます。「あなたが大切だ」と伝えるためにも、この技術を意識的に取り入れてみることが大事なのでしょう。
■介護を受ける側の不安を取り除く
認知症によるケアの中で、介護を受ける人と対立をしてしまい、「優しくできなかった」と自分を責めてしまう人は少なくありません。
ただ、**介護を受ける人も実は不安なのです。**人間は、自分が知らないことに対しては不安を感じ、知っていることに対しては安心する心理を持っています。一見理解しがたい行動を取っていても、それは強い混乱と不安の表れであることが多くあります。その不安を取り除く工夫をしてみることが大切です。
そのための約束事として、次のことを心がけてみてください。
1、一度にたくさん頼まない
2、安心して取り組める環境をつくる
3、本人のよい思い出を知っておく
認知機能が低下すると、一度にできることは一つだけになります。同時にたくさんのことを言ったり、行ったりせず、ご本人が安心して何かに取り組める環境を整えることが重要です。不安そうな顔をしていたら、たとえば結婚したときのことや子どもが生まれたときのことなど、ご本人がよく覚えている「いい思い出」を話題にすることも、不安を取り除くのにとても有効です。
認知症の症状が進むことは、その人の過去を知る家族にとってつらいこと。しかし、今を受け入れることがケアの第一歩となります。
**『家族のためのユマニチュード』**は認知症患者の家族のための本。本書にも「介護を一人でがんばりすぎない」と書かれています。そして、困ったことがあれば、かかりつけの医師や訪問看護ステーション、ケアマネジャー、訪問介護員、自治体の地域包括支援センターなどにSOSを出すことも大事だとも。
介護の不安を取り除くために読んでおきたい一冊です。
(新刊JP編集部)