【「本が好き!」レビュー】『鉄道とトンネル:日本をつらぬく技術発展の系譜』小林寛則、山崎宏之著
提供: 本が好き!青春という年齢からは離れてしまった気がするが、青春18きっぷの恩恵は受け続けている。
ゆっくりとした速度で楽しむ旅程は、本がお供となるが、本書はその最適な存在と言えそう。
車窓からの眺めを妨げるトンネルが、案外面白い存在として聳えてくるに違いない。
本書には明治、昭和初期、戦後と時代ごとの代表的なトンネルを紹介し、さらに新幹線、リニアと続いていく。
普通に電車に乗っていれば気にすることもない存在のトンネル。
気になるのはその長さ。
そして、長いと誰も事故らないよう軽く祈りながら運転する。
しかしながら、それぞれのトンネルが誕生するまでには多くの人々が関り、それぞれに独自のドラマが存在するようだ。
はじめて中央分水嶺を貫いた柳ヶ瀬トンネル。
京都と福井を結ぶ鉄道建設のため、滋賀と福井の県境の柳ヶ瀬峠を貫通させたものだ。
鉄道の利便性を正しく判断した京都府は、明治政府に対して「北海の物産を南海に物流する」ことを提言。
東京遷都で京都が衰退することを懸念した政府は、1871年には測量調査に着手。
しかし、工事はトンネル部分で難航する。
日本にとっては前人未到の1000メートル超のトンネル工事だから、それは致しかたない。
当初は手作業での掘削を行っていたが、それでは1日数メートルがせいぜい。
そこでダイナマイトや削岩機を使用することに。
それでもトンネル工事は遅れに遅れる。
結局1300メートル超のトンネル工事に3~4年の歳月を要することに。
苦労して完成させた柳ヶ瀬トンネルの物語は、残念ながらこれで終わりではない。
魔のトンネルという悪名をいただく残念な事故が発生することに。
その黒歴史を越えて、現在は車道のトンネルとして活躍しているという。
意外な驚きは関門トンネル。
本州と九州を海底で繋ぐこのトンネルの完成は、なんと第二次世界大戦中!
いかに対岸が見える狭い海峡部とは言え、戦前に海底トンネルを築こうという発想とそれをなしとげた技術に驚かされた。
山陽本線は1901年の段階で現在の下関まで延びていた。
しかし、その先の九州に物流を進ませるためには船に荷を積み直し、さらに対岸の貨車に積み直す必要が。
それでは運ぶ荷物の種類や量に制限が加えられ、さらに荷役費や荷物損傷の補償など余計なコストもかさむ。
本州と九州を結ぶことは物流において不可欠な課題だった。
もちろん、いきなりトンネルというわけではなく架橋も含めて調査を行ったようだ。
しかし、工事費や工事の困難さを踏まえた結果、トンネルが選択されたようだ。
海底の下に向かって緩いV字状を呈する関門トンネル。
電車に乗っていても、下がり上がる経路は感じなかったが、それはにぶい私だけのことなのか・・・
当たり前にあるトンネル。
隧道と呼ばれることもあったが、存在することに疑問を抱くことはなかった。
そして、その工事のことに思いをはせることも、もちろんなかった。
たとえ、どんなに短いトンネルであっても、それを必要とした人たちがいて、さまざまな課題をクリアしながら工事を成し遂げた人たちがいた。
トンネルの歴史が長いほど、工事は大変だったことだろう。
しかし、平成になってもリニアのためにという新たな難工事に取り組む人たちがいる。
誘致するだけの人は気楽だなと思いつつ、トンネルを通る際には工事を成し遂げた人たちに思いをはせるようにしたい。
(レビュー:休蔵)
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