ラジオでかけてもらえなかった曲が世界で大ヒットしたきっかけ
世の中を変えるような「革新的なアイデア」はどのようにすれば生まれるのだろうか。
そのためには、これまでイノベーションを起こしてきた人たちの足跡を辿ることが大切だ。
『すごいイノベーター70人のアイデア』(ポール・スローン著、 中川泉翻訳、TAC出版刊)は、様々な時代の異なる分野で影響力を持った偉大なイノベーターたちの生涯をエピソードと共に紹介した一冊。
スティーブ・ジョブズやパブロ・ピカソ、本田宗一郎といった歴史に名を残したイノベーターたちは、何を考え、どのように行動して革新を起こしたのかが分かりやすく説明されている。
■あまりにも革新的な曲をどう売り込むか
ここで取りあげるイノベーターの一人が、イギリスのロックバンド「クイーン」のボーカルのフレディ・マーキュリーだ。
1975年に発売されたアルバム『オペラ座の夜』のためにマーキュリーが書いた「ボヘミアン・ラプソディ」は、ポピュラー音楽の型を破る革新的な曲だった。
当時のほとんどのポップスが型にはまっていたのに対して、マーキュリーは1つの曲に様々なスタイルやテンポを複雑に混ぜ合わせた。この曲は密集和音のアカペラのイントロ、バラード、ギターソロ、オペラのパロディ、ロックアンセム、そして美しいフィナーレという6つの要素で構成されている。
クイーンはこの曲をシングルとしてリリースしたいとレコード会社EMIに提案。しかし、断られてしまう。なぜかというと、当時ラジオ番組で流すのは3分半以内の曲だけという慣例があり、「ボヘミアン・ラプソディ」はそれを大きくオーバーする5分55秒という長さだったからだった。
そこでマーキュリーは、友人のラジオDJに直接掛け合い、曲の一部だけをかけてもらうという条件でレコードを渡した。DJはその条件に従ってかけると、リスナーから大きな反響が寄せられ、週末の自分の番組でこの曲をノーカットで何度かかけた。
その結果、月曜の朝に多くのファンが「ボヘミアン・ラプソディ」を求めてレコード店に足を運ぶのだが、レコードはリリースされていない。この反響から、EMIはレコードをリリースせざるをえなくなったのである。
こうして「ラジオでは流せない」と言われていた曲が、クイーン最大のヒット曲の1つとなり、世界的大ヒット曲となったのだ。
著者は、型破りなアイデアや創作物を売り込むために、時にはみずからか宣伝担当になる必要があると指摘する。 革新的な「ボヘミアン・ラプソディ」という曲を書いたこと、そして「あまりにも斬新すぎる」という理由で従来のルートから拒まれたものの、直接ラジオDJに掛け合って曲を流してもらったこと。これが、マーキュリーの「イノベーション」だったのだ。
■優れた人とともに仕事をして意見を聞く
もう一人、アカデミー賞最多ノミネートの映画監督であるウディ・アレンを少しだけ取り上げよう。
彼は、自分の映画にすばらしい俳優たちを集め、生かす。そのおかげでアレンの仕事ぶりもいい感じに見える。つまり、優れた人の才能を信じ、その意見を取り入れたことで、成功を収めたのである。
一緒に仕事をする人を選ぶ際に、自分よりも優秀な人を選ぶことができるだろうか。もしそれができれば、イノベーションを起すことができるのかもしれない。
本書では70人のイノベーターの200を超えるアイデアが収められている。偉大な先人たちの考え方や行動力、エピソードから学ぶことは多いはずだ。
(新刊JP編集部)