【「本が好き!」レビュー】『脂肪のかたまり』ギー・ド・モーパッサン著
提供: 本が好き!普仏戦争で、ドイツに占領された土地から、慌てて逃げていく馬車。その馬車には、いろんな階級の人々が乗っていた。聖職者たち。貴族。革命家。中には、「脂肪のかたまり」と称されていた娼婦も一人乗っていた。
慌てて出て来たものだから、彼らのほとんどが何も食料を持っていなかった。食べ物を持っていたのは、「脂肪のかたまり」ただ一人。でも、彼女は気前よく、自分が持ってきた豪勢な食べ物・飲み物を馬車に乗り合わせた人々に振舞った。同乗者たちは、それが当然のことであるかのように、彼女の食料を食べた。
たっぷりある食べ物のおかげで、馬車の中は和気藹々となった。いつもは蔑まれるような立場にある「脂肪のかたまり」も食料のおかげで、他の者たちと楽しい時を過ごすことができた。 そして、馬車はとある町についた。だが、町では、とんでもない事態が待ち構えていた。
狭い馬車の中で、同乗者たちは仲良くなったかのように見えた。そして、着いた町で困難な状況に立たされると、彼らは、「脂肪のかたまり」に自分たちを助けてくれるよう懇願した。 だが、彼らは、困難が解決されるやいなや、無残にも「脂肪のかたまり」を自分たちの集団から切り捨ててしまう。
困っているときには、まるで階級差などないかのように振舞う。だが、彼らの差別意識は決して消えはしない。むしろ、差別しているからこそ、徹底的に利用してやろうという底意地の悪ささえ見えてくる。
「脂肪のかたまり」という呼称そのものが差別的だが、いったい、差別という脂肪のかたまりに包まれ人間らしさを失くしてしまっているのはどちらなのか、と言いたくなる。この同乗者の中に聖職者がいたというのもなんともたまらないことで、この作品は、階級差別だけでなく、聖職者の腐敗も批判しているのだろうと思う。
なんとも言えないむき出しの人間のエゴを描いた作品だが、これはモーパッサンの処女作で、師匠のフローベルに絶賛されたという。
(レビュー:ぷるーと)
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