創業間もない「ナイキ」と日本企業の意外な関係
2017年に出版されたビジネス書の中で最も優れた本を表彰する「ビジネス書大賞2018」で大賞に輝いたのは、とても泥臭い一冊であった。
マッカーサーの「ルールを守ったことでなく、ルールを破ったことが人々の記憶に残る」という言葉を何度も引用しながら、未来を夢見るスタートアップの明るい側面だけでなく、その暗部や日本企業や政府との交渉の裏側まで描こうとする。
『SHOE DOG 靴にすべてを。』(大田黒奉之訳、東洋経済新報社刊)は世界的なスポーツ関連用品のメーカーであるNIKE(ナイキ)の創業者であるフィル・ナイトが、1962年にビジネスを始めてからNIKEが上場するまでの18年間を回想する一冊である。
本書は様々な読み方ができる。企業のスタートアップ期の情熱や信念、そして破天荒さを味わうこともできるし、NIKEがいかにして成長していったかという一つのケーススタディでもあるし、スタートアップには何が必要なのかという経営的側面でも勉強になる。フィル・ナイトという人間そのものにフォーカスして読み解くことも可能だ。
とはいえ、日本人ならばNIKEと日本企業の深いつながりについて無視することはできない。
学生時代、陸上競技の選手だったフィルは24歳になったとき、あるビジネスをするために日本にやってくる。彼がスタンフォード大学のビジネススクールで学んでいる時に思いついた「馬鹿げたアイディア」を形にするために。
それは、日本のシューズメーカーが造っている靴を仕入れ、アメリカで販売するものである。フィルが訪ねたのは神戸にある「オニツカ」という会社だ。今は「アシックス」という名で知られている。
馬鹿げたアイディアをビジネスにするために奔走するフィル。
「信念だ。信念こそは揺るがない」
「負けることなど耐えられない」
こうした名言が次々と飛び出すのも、この本の特徴だろう。しかし、その「オニツカ」と決別する時がやってくる。そして、窮地に立たされるフィルを救ったのは、別の日本企業である日商岩井だった。
フィルは相当の変わり者だったようだ。部下から何通も手紙が来るのにそれを返そうとしない。褒めて欲しいと懇願されるのに褒めない。とはいえ、負けじと彼の側にいる人たちも変わり者である。フィルの無茶振りに結局付き合っている。自分も含めて社会に拒絶された「根っからの負け犬」たち、とフィルは述べている。
6マイル(約9.6キロ)の距離を、フィルと同じように毎日走れば、彼の心に少しでも近づくことができるかもしれない。シューズを履いて走り出したくなる一冊である。
(金井元貴/新刊JP編集部)