「組織に呑みこまれる怖さを書かずにはいられなかった」 “社畜”精神から生まれた新時代の仕事小説とは?
ブラック企業や過労死の問題が明るみになり、「働き方」の見直しが叫ばれるようになり、社会全体で「働き方改革」が進んでいるようにも見える。しかし、今までの慣習を急に変えることは出来ない。とにかく残業をして仕事に没頭する人もいる。
『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子著、新潮社刊)はウェブ制作会社を舞台に、リーダーが勝手に進めてしまった無謀なプロジェクトが物語の中心となりつつ、どのように仕事と向き合うかという個々人の苦悩にスポットライトが当てられた新時代の仕事小説だ。
これまでの仕事小説は、一つの大きなプロジェクトを苦難を超えて成し遂げ、大団円を迎えるという筋書きが「王道」と言えるものだったが、この作品は、より個人の働き方にフォーカスして描かれている。
今回は作者の朱野帰子さんにお話をうかがい、小説に込めた想いについて聞いた。前編は物語の成り立ち、ストーリーのモチーフになった出来事についてである。
(聞き手・文/金井元貴、写真:山田洋介)