今の若者たちの消費傾向を提示した「マイルドヤンキー」とは一体なんだったのか?
マーケティングにおいて、どの時代でも「キー」となる人々がいる。近年注目を浴びている存在が、2014年の「新語・流行大賞」にもノミネートされた「マイルドヤンキー」である。
彼らは一体どんな存在なのだろう。それまでの「ヤンキー」や、「若者」と一体何が違うのだろう。
それを知るには、その言葉を定義した博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平氏による『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎刊)を読み解くのが一番良い。
本書では、135人のマイルドヤンキーの若者たちへの調査をもとに、そのデータを踏まえて「マイルドヤンキー」の消費傾向に迫る。
そこから見えてきたのは、風貌は一時代前のヤンキーだが中身はかなりマイルドになった「残存ヤンキー」と、見た目は今どきの普通の若者と変わらない「地元族」で構成される、現代のヤンキーたちの姿である。
彼らは気さくにインタビューに応じ、全体的にいい人が多い。犯罪に手を染める人も減っており、反抗心をむき出しにする人もほとんどいない。そして彼らは優良な消費者であると原田氏は指摘する。
マイルドヤンキーの傾向を代表的なものは以下の3つだ。
・上「京」志向がない
・地元で強固な人間関係と生活基盤を構築
・地元から出たがらない
彼らは、「ひと旗あげる」と言って東京を目指さない。大事なのは、生まれ育った土地に根ざした同年代の友人たち、そこで育まれた絆意識、家族と地域を基盤にした平穏な生活である。
■見栄ではなく、「心地よい空間作り」が大事
東京を目指し、そこで成功をしてお金を使う。そんな消費行動はもはや若者たちの憧れではなくなった。
原田氏はゼロ年代以降、特にリーマン・ショック以降は若者の消費離れが進んでいることを指摘したうえで、その理由をネット等のITインフラの整備、とりわけソフトのジャンルにおいて合法違法問わずさまざまな娯楽がタダで手に入るようになったことに見出す。また、長引く不況により、若者の給与が減ったり、非正規雇用者が増えることで、娯楽費や遊興費にあてる金銭的余裕のない若者が増えたことも忘れてはならない。
では、マイルドヤンキーたちはどうなのか。
もちろん、こうした一般的な若者と同じ傾向がないわけではないが、その一方で独特な傾向が見えると指摘する。
原田氏があげる例の一つが車だ。スポーツカーや高級車ではなく、大人数が快適に乗車できるミニバンを好むという。そこに映し出されるのは「見栄のための消費」ではなく、友達や家族を大切にする傾向である。
また、彼らはその車に乗ってショッピングモールに行く。目指すのは渋谷や原宿ではなく、イオン等に代表されるメガモールだ。
■なぜ彼らは高校や大学よりも中学校の人間関係を続けるのか?
本書にはさまざまな「マイルドヤンキー」がインタビューに出てくる。
例えば、兵庫県高砂市に住む「地元族」の夫婦。ともに25歳の二人は強烈な地元愛を語っている。「君は東京に行きたくないの?」という質問に、「東京に行く意味はない」と言い、東京よりも近場の大阪にすら「行く必要もない」と述べる。神戸ですら「半年に1回程度なら仕方なく」だ。
ただ、彼らは郷土としての地元が好きなのかというと、そうではない。彼らが好きなのは、地元の人間関係が続く空間だ。中学生時代と地続きの「居心地の良い」生活をキープしたいだけと原田氏は分析する。
変化に対して大きなエネルギーを使いたくない考え方を持っているというのだ。
マイルドヤンキーは地方だけではなく、東京にはいる。前述の夫婦に続いて出てくる練馬区の石神井に住む20歳前後の地元族たちは、中学校時代からの同級生で友達同士、校区が同じなので住んでいる場所も近く、大半が実家暮らしだという。
彼らは大学生から中卒、高校中退までさまざまだが、同じ中学校という共通点がある。なぜ中学校なのか。高校以降は成績の良し悪しで選別されるが、中学校ならば学歴や職業も関係ないので心を許して付き合えるというわけだ。
こうした指摘の上で、原田氏は彼ら向けの消費の傾向と、どのようなサービスを提示すべきかを書き記している。
そのヒントは、「彼らの消費は現状維持を続けるための消費である」ということだ。ぜひ、新たな時代の若者たちの考えを本書から学び取ってほしい。
(新刊JP編集部)