イノベーションを起こし、企業に成功をもたらす人が使う「フレームワーク」とは?
イノベーションをどのように起こせばいいのか、ブレイクスルーを起こすプロダクトを生み出すには…。企業の企画担当者やマーケティング担当者は日々頭を悩ませているはずだ。
世の中にはそのための思考法やアイデア法が書かれた本が多数出版されているが、2014年に出版された『USJのジェットコースターは なぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA刊)は今読んでもなお、読者に大きなヒントを与えてくれる一冊である。
著者は当時ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)のCMO(最高マーケティング責任者)だった森岡毅氏だ(現在はUSJを退任)。森岡氏はもともとP&GからUSJに転職した“移籍組”だが、来場者数が低迷を続けていたUSJのV字回復に貢献、話題を集めた人物として知られる。
そんな彼のエンタメに対するストイックな視点と、画期的なアイデアを生み出せる発想の源泉をうかがうことができるのが本書だ。では、その内容を少しだけ触れよう。
■まずは自分がいる業界を徹底的に知る
2001年に華々しくオープンしたUSJは、ハリウッド映画の世界を体験できる大人向けテーマパークとして人気を博し、初年度は約1100万人の来場者を記録した。
しかし、その後は800万人台を行き来するなど低迷。2011年に10周年を迎え精力的にイベントを仕掛けると、来場者数は再び上昇の気配を見せ、2012年度は周年イベントの翌年に来るという“周年の呪い”もなんのその、975万人の動員を見せる。そして2016年度には約1460万人にまで伸びている。
本書が出版された2014年の目玉アトラクションは、映画『ハリー・ポッター』シリーズの世界を忠実に再現する「The Wizarding World of Harry Potter」だった。このアトラクションは文字通り“社運をかけた”一大プロジェクトであり、本書でもその魅力が語られている。
V字回復を実現し、魅力的なアトラクションや仕掛けを次々と仕掛けていった森岡氏だが、彼のアイデアから生まれたアトラクションやマーケティング戦略には以下のようなものがあげられる。
・大人向けテーマパークから小さな子供連れの家族でも楽しめるテーマパークへの転換
・映画主体からエンタメ主体への舵切り(「モンスターハンター」や「バイオハザード」などとのコラボレーション)
・ひっそりとやっていた「ワンピース」のショーを前面に押し出す
・震災後自粛ムードの中で「スマイル・キッズフリー・パス」を期間限定で発行
・後ろ向きに走るジェットコースターの開発
・『ハリー・ポッター』シリーズの世界観を堪能できる壮大なエリアを新設
この中でも、大人気ゲームである「モンスターハンター」は400時間プレイしたという。その膨大なプレイ時間が「モンハン」をUSJに呼び寄せた一つの大きな要因になっていることは、誰もが想像できるはずだ。
家族には「これも仕事なんや!」と言って、映画やゲーム、アニメ、音楽などにどっぷりと浸かる。自らが従事する業界を知らずして、その業界の中で成功することはできない。森岡氏の研究熱心さもUSJの集客数増加につながったといえる。
■アイデアが100%あたる人はいない
しかし、ただ研究熱心なだけでは強いアイデアを生み出すことはできない。
生み出したアイデアを形に落とし、成功に近づくように適切な形にして世に出せなければ、人々は見向きもしないだろう。本書の後半では、そのためのマーケティング手法が書かれている。
どんなアイデアでも、確実にそれが成功するとは限らない。できることは、「確率をあげること」だと森岡氏は述べる。強いアイデアをひらめく確率をあげて、より具体的に落として成功に結び付ける確率をあげるのだ。森岡氏は「アイデアの神様とは確率だ」とまで言い切る。
では、強いアイデアを生み出す確率を高めるにはどうすればいいのだろうか。本書では「イノベーション・フレームワーク」と呼ばれ、以下の4つの技法から成るという。
(1)フレームワーク
(2)リアプライ
(3)ストック
(4)コミットメント
例えば、このうちの「フレームワーク」は、まずアイデアを考える前に「どのような条件を満たせばいいのか」「その条件を組み合わせて、どこに着眼点を定めて頭をフル回転するべきなのか」の2つが大事となる。つまり、「どこに宝が埋まっているか」を見定める力といえる。
また、「リアプライ」は宝探しの場所が定まり、どのように探すかを選ぶ上で大切な要素だ。「リアプライ(Reapply)」つまり、すでにあるやり方で成功しているものはないかを探す。自分でアイデアを生み出すのは、最後の手段であり、まずは先行事例を探すことが大事なのだ。
残りの2つをはじめ、それぞれの詳しいやり方は本書で丁寧に説明されている。2016年には文庫化もされているので、ぜひ参考にしてほしい。
(新刊JP編集部)