だれかに話したくなる本の話

アジア最後のフロンティア「ミャンマー」は本当に有望な投資先か?

数年前から、ミャンマーに対する対外直接投資が進んでおり、人口6000万人を超えると言われるミャンマーを「次なる輸出市場」と標的に据えている日系企業が多くなっているという。中には、視察や出張、現地に長期滞在してビジネスを考える人もいるだろう。

しかし、ほとんどの日本人にとって、ミャンマーは馴染みのない国。一体どんな国なのだろうか?

そんなミャンマーの経済動向、民族的文化背景から同国のことがわかる一冊が 『ミャンマー 驚きの素顔 現地取材 アジア最後のフロンティア』(三橋貴明著、実業之日本社刊)だ。

本書は2013年に刊行されており、最新の経済状況、ビジネス的な発展状況をつかめるわけではないが、現地取材によって見えてくる実態はミャンマーという国を理解するのにうってつけだと言える一冊だ。

■ミャンマーで走る「自動車」から見える経済実態

ミャンマーの日本車比率は非常に高く、95%を超えているだろうと著者は述べる。
そのほとんどは中古車であり、50年以上前に生産された軽三輪トラック「K360」も現役で走っているほど。かと思えば、トヨタのレクサスなどの日本でも高級車として扱われるものの中古車も見かけるという。

しかし、その状況には違和感を覚える点があると著者は述べる。
ミャンマーの労働者の月収は9000円程度だという。そして、金融経済が未成熟なこともあり自動車ローンがなく、しかも、レクサスの中古車などは日本の二倍の価格で売られている。

9000円程度の月収なのに、高級車が走っているのはなぜか?
その答えは想像を絶するほどの経済格差があるからだ。

ミャンマーは、2015年の総選挙でNLD(国民民主連盟)が圧勝しているものの、長らく閉鎖された軍官僚主導の社会主義国家だった。権力が集中していたミャンマーでは、軍官僚やそこに連なる政商に所得や富が集中していたようだ。

■真面目だがイノベーションは期待できない国民性

ミャンマーの製造業作業員の人件費(年間実負担額)はわずかに1100ドル。中国の6分の1以下だ。
貧困国でありながら、意外なことに国民の識字率は高い。国民レベルでの対日感情は良く、仏教徒が多く犯罪も少ない。

また、ミャンマーの中心語であるビルマ語は、日本語的な「主語、目的語。述語」という文法で構成されている。つまり、単語だけ覚えれば互いの言語を習得しやすいということだ。そのため日本人とミャンマー人ではコミュニケーションも比較的取りやすいといえるだろう。

さらに、ビジネス面では、ミャンマー人の上司や目上の人に対する尊敬の念は非常に深いという。

日系企業が新たな市場として対外直接投資を進める理由の一端は、こうしたミャンマー国民の特性や気質にもあるのかもしれない。

ただし、過去の社会制度の影響のせいか、言われたことは確実にやるが、自ら率先して物事を改善しようとする意欲はまったくないという。教育にも創造性に重点は置かれておらず、イノベーティブな人材を育成するには難しい環境のようだ。
現地でのビジネスを円滑に進めるためには、こうした側面は無視できない要素だろう。

■豊富な天然資源と危うい電力供給

ミャンマーには天然資源と言う大きな武器がある。
天然ガスの推定埋蔵量は2000億立方メートル。鉱物資源も銅、鉛、銀、錫、タングステン、金などもある。農産物の産出量も国内の需要を補って余りある。 地理的にも、中国、インド、ASEANに囲まれた位置にあり、物流の拠点としての可能性も十分にある。

そうしたメリットがありながら、不安も残るのが不安定な電力供給事情だという。
国民一人当たりの電力使用量は東アジア・太平洋地区で最低水準であり、いつ停電するかわからないほどに脆弱な電力供給事情は、工業団地の企業にとっては大きなリスクであり、経済発展の妨げにもなっている。

近年は、国を挙げて電力増強に挑んでいるが、その成否が「アジア最後のフロンティア」の舞台になり得るかどうかのカギを握っているのかもしれない。

(ライター/大村佑介)

ミャンマー 驚きの素顔 現地取材 アジア最後のフロンティア

ミャンマー 驚きの素顔 現地取材 アジア最後のフロンティア

驚くような発展を遂げようとするミャンマーの姿とは?

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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