困難を乗り越えるための「勇気」の持ち方とは?
「勇敢」「勇気」といった言葉は、何か偉大なことをした人に向けられることが多い。しかし、勇気はそれだけではない。何かに挑戦をするとき、リスクがあると分かっていても踏み出す時、勇気が必要だ。勇気がなければ新しい一歩を踏み出すことはできないのだ。
だが、勇気がなかなか持てないと悩んでいる人もいるだろう。踏み出したいのに、なかなか踏み出せないでいる。勇気を持つにはどうすればいいのだろうか。
『「勇気」の科学』(ロバート・ビスワス=ディーナー著、児島修翻訳、大和書房刊)は、心理学の実践分野の第一人者である著者が、最先端の科学的成果を盛り込んだ「日常で直面するリスクを引き受け、決断する力」を高めるためのエッセンスを紹介した一冊だ。
■勇気の正体、それは…
そもそも「勇気」とは何なのか。その意味からだ、
火事の現場から子どもを救う消防士や偉大な記録を達成したスポーツ選手など、勇気は具体的な行動の形として表現されることが多い。実際、彼らは勇気を持って困難に立ち向かい、それを乗り越えた人たちであるが、それがすべてではないと著者は述べる。
辞書を開くと、勇気は「恐れることなく危険や困難に直面することを可能にする、心や精神の特質」と同じように定義されているだろう。著者はこの定義から、勇気の本質は、行動よりもむしろ心構えにあるという考え方にあることを指摘する。勇気は具体的な行動だけではなく、困難に立ち向かう態度のことであるといえるのだ。
そして著者は、心理学者クリストファー・レイトの“「勇気」についてのあらゆる既存の定義を比較して、共通を探す”という研究を紹介する。
この研究によると、心理学研究においてのさまざまな定義のほとんどは、以下の共通する特徴について言及しているという。
1.危険や脅威が存在すること
2.行動の結果が確実ではないこと
3.恐怖が存在すること
4.上記の条件があるにもかかわらず、個人が明確な意志と意図を持って行動すること
つまり、恐怖や危険、脅威といったものがある場所で行動を取る「自発的な意思」が、勇気といえるのだ。
この定義に当てはめるならば、会社での非倫理的な商習慣を指摘しようとしている中間管理職の勇気も本質的には同じということだろう。
さらにはもう一つの重要な要素があるという。
それは、倫理的な価値がなければいけないことだ。単なる虚勢や力の誇示、男性ホルモンをエネルギーにした自慢めいた行為は勇気とは呼べないのだ。
勇気は他者に伝染するということを聞いたことはないだろうか。
たとえばいじめっ子に立ち向かう友達を目にして、自分も勇気を出して行動を起こしたり、人が心から誰かを助けたいと思って勇気を持って行動し、それに感化された自分も誰かに対して行動を起こしたり、といったことだ。
勇気には、そういう風に他者の心を揺り動かす力がある。だからこそ価値があると著者は述べる。
■勇気は習得できるのか?
では、その勇気は習得できるのだろうか。
勇気は学習によって得られるというのが著者の考えだ。著者は勇気を「一般的勇気」と「個人的勇気」の2つに分類しており、そのうちの、「個人的勇気」において、自分にだけ感じる恐怖を、自分自身にとって勇敢な方法で行動を起こすことで習得できると述べる。
例えば「飛行機が怖い」という個人的な感情を乗り越えるためには、必死に自分を奮い立たせる必要があるだろう。そこで自分自身のために勇敢さを発揮しなければいけない。
だが、どうしても勇気が湧いてこない。そんなときはどうすればいいのだろうか?
まずは、自分は勇気があるのだということ認識することが大事だと著者は述べる。「当たり前のことができた」のではなく、「自分は並外れた行動をすることができたのだ」と自分自身のことを認めるのである。
勇気は鍛えることができるということを科学的に検証した本書。なかなか一歩が踏み出せないという人は、本書を参考にしてみてはどうだろう。
(新刊JP編集部)