「すぐに答えを出そうとしない」「見返りを求めない」…人生を豊かにする生き方
人生を豊かに過ごすにはどうすればいいのか。
そもそも、「生きる」とはどのようなことなのか。
答えを出すことが難しい問いに向き合う時間は誰にでもあるが、答えが出ないまま終わるということも多いだろう。
では、どう考えればいいのか。
どんなときも「おかげさま」を忘れず、死を心配せずに毎日を楽しく生きることが、人生を与えられた私たちの使命であり、何よりも今を楽しむことこそ、最も重要である。
――そう述べるのが、『おかげさまで生きる』(幻冬舎刊、2017年に文庫版刊行)の著者である医師の矢作直樹氏だ。医師として人の生死と向き合ってきた矢作氏が辿り着いた「生きる」の意味。そして、豊かに生きるための考え方。本書から紹介しよう。
■すぐに答えを出さず、時間に結論を委ねることも大切
問いにぶつかったら、すぐに答えを出さないといけないという気持ちになるだろう。「なぜ生きるのか」という問いもそうだ。
しかし、矢作氏は、答えは「出すもの」ではなく、「出るもの」であると考えているという。
どう判断していいのか見当もつかないとき、結論を先送りにしてしまったことはないだろうか。
そして、「優柔不断な自分が嫌だ」「答えを出せず情けない」、そんな風に思って自分をせめるかもしれない。
しかし、先送りにするのも選択の一つ。もしかしたら時間が解決してくれるときもある。
矢作氏は「時間という存在は、私たちを縛る嫌な存在である反面、物事を解決する、トラブルを解消するための貴重な存在です」と指摘する。
自分の生活を振り返ってみて欲しい。どこか焦っていないだろうか? 歩調を周囲に合わせようと必死に答えを考え続けてはいないだろうか。でも、誰かが勝手に作ったスピードに巻き込まれてイライラするのは禁物だ。
■どうしようもない状況は「しかたがない」
また、朝の通勤時に電車が運転見合わせになったり、物事がうまくいかないなど苛立ちのもとは至る所にある。しかし、怒ったところでどうすることもできない。そこでは「しかたがない」と考え、理不尽を受け入れることが重要だ。
しかし、矢作氏は、「しかたがない」という言葉はあきらめの境地で使うのではないと指摘する。自分の力ではどうしようもない状況があったら、「それもまた人生」とまずその状況を受け入れるのだ。それが大きな学びに通じてゆく。
人は困ったときに本性が出るもの。確かに苛立ちを隠さずに誰かにぶつかるなどもってのほかだ。「しかたがない」も重要な考え方だといえる。
■人に見返りを求めないことで本当の快適さを得る
一人ぼっちという孤独感や、周囲とうまくやれないという分離感の行き着く先について矢作氏は、自分なんて死んだほうがいいいいのだという「負の領域」であると指摘する。 そして、こうした感情の大本は「自縛」という領域で、自分を縛っているのは自分自身であることを理解しておかなければいけない。
矢作氏は、孤独感や分離感は一人でいるから起こるのではなく、「他者との感情面での『つながり』を感じられないから生まれる」と述べる。
よく考えみれば、確かに私たちは他者とのつながりなしで生きてはいけない。何かを買うにしても、どこかへ行くにしても、誰かの助けが必要だ。孤独感や分離感は“つながっているはずの感覚”が鈍くなっているだけなのだ。
矢作氏は、人生はギブ・アンド・テイクではなく、ギブ・アンド・ギブと訴える。見返りを期待せずに与えることが、いずれ自分のためになる。
与えたら忘れる。その循環に身を置くことが、本当の快適さを得ることにつながると言う。
ただ、一人の感覚を急に手放すことは難しい。そこで本書で提案されているのが、まず「しがらみ」を手放してみること。「しなければいけない」「なくてはいけない」といった「しがらみ」を1つだけでいいので手放す。つまり、自分にとって譲れない考えを手放すのだ。
しがらみが強いと、知らず知らずのうちに周囲とのつながりが薄れてしまうと矢作氏。それは、皆が異なる価値観で生きているという当たり前のことを忘れるからだ。
しがらみを捨てる。そうすることで、孤独感が薄れて他者とのつながりが太くなり、人生そのものが豊かになるのだろう。
人生の岐路に立ったときや迷ったとき、救急医療の第一線で命と向き合ってきた矢作氏の生きることへの考え方は、進む道を導き出すときに参考になるはずだ。
(新刊JP編集部)