ビッグデータと人工知能の時代に生き残る企業のリーダーの振る舞い方とは?
これから飛躍的な成長を遂げる企業とは、どんな企業だろうか。
おそらく大企業だからといってこの先も堅調に成長する保証はないだろう。一方で、虎視眈々と技術力を高めている中小企業が次代のイノベーションを起こすかもしれない。
ただ一つ言えるのは、企業や組織を率いるリーダー次第でその状況を変えることができるということだ。
テクノロジーの導入によって、リーダーは、「経験・直感」からデータに基づいた意思決定ができるようになり、まったく異なるデータの組み合わせから新たなアイデアを紡ぎ出すこともできるようになった。さらに、それに基づいて組織の変革を促すことも可能だ。
しかし、組織の変革を促すためにどのようにリーダーシップを執るべきなのか?
アメリカ有数の経営コンサルティング会社のジョシュ・サリヴァン氏とアンジェラ・スタヴァーン氏によって執筆された『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』(尼丁千津子訳、集英社刊)はその事例の宝庫である。
本書のテーマは、データが極めて重要になる時代において、リーダーはいかにして自身のリーダーシップを発揮するかということだ。そして、革新的な技術を上手く利用してリーダーシップを執る企業や組織を「マセマティカル・コーポレーション」と呼んでいる。
■アメリカ国勢調査でテクノロジーを導入して50億ドルもの経費を削減
では、「マセマティカル・コーポレーション」とは具体的にどんな企業・組織を指すのか?
そして、こうした企業・組織のリーダーが成し遂げてきたこととは何か?
本書から、アメリカ国勢調査局最高執行責任者であるナンシー・ポトックの仕事を少しだけご紹介しよう。
2020年のアメリカ国勢調査実施に向け、ポトックが立てた戦略は、国勢調査局の変革と国勢調査の調査員の業務遂行方法に対する見直しの2つである。この中には統計データ処理方法の見直しや、手作業の削除を目指した技術の活用などが含まれており、次の国勢調査でなんと50億ドルもの経費を削減することが目標だ。
見直しの具体例の一つは、これまで行ってきた30万人以上の戸別調査員による住民への聞き取り調査である。
ポトックはスマートフォンを使って訪問スケジュールと経路を受け取り、最適な経路・時間で目的の家に到着できるようにしようと考えた。
調査員の移動方法は車だ。2010年の国勢調査では、全戸別調査員の総移動距離は、アメリカの道路総距離の5倍を記録したという。なぜこんなに非効率なのかというと、いつどんな順に調査を行うかの判断を調査員が一任されていたからだ。訪問しても住人が留守ということが頻繁に起き、何度も再訪問するケースもあったようだ。
こうした非効率的な調査にメスをいれたのがポトックである。
だが、連邦議会の厳しい監督下において、変革を促すことは極めて難しい。
2010年の国勢調査では、訪問調査で携帯機器を利用する計画が中止になったことがあった。商務長官と会計検査院から「電子機器によるプロジェクトは失敗するリスクが高い」と評された過去がある。
同じように、ポトックは国勢調査局の変革を目指す中で、リスクを嫌うという根本的な問題に直面する。
しかし、このリスクを嫌う組織文化を一新しない限りは変化を起こすことは難しい。
そこで推し進めたのがリスク管理プログラムの導入である。大小あらゆるリスクを記録し、局全体で閲覧できるようにした。こうしてリスクを浮かび上がらせ、対処することで、管理職も第一線の職員も、新構想とともに前進するための自信と勇気を身につけさせることができたのである。
■人工知能時代のリーダーは「理系」よりも「文系」的要素が重要?
どんな組織でも、大きな変化に対して過敏に反応するもの。そのときに、リーダーは「伝道者」となって変化の利点を宣伝し、必要があれば方針を変えていかないといけない。
本書を読むとポトックのリーダーシップが非常に優れていることが分かる。ただ単に新たなテクノロジーを導入するにしても、抵抗勢力を納得させ、未来につながるように仕向けなければいけない。最終的な結果は2020年に分かるが、変革を促しただけでもポトックの仕事の価値は大きい。
そして、ここに、人工知能時代に生き残っていくためのリーダーの仕事のヒントがある。ビッグデータを生かせるリーダーは常識や制約に捉われずに発想でき、なおかつ、文系的な側面が求められるということも分かるだろう。
本書ではフォード、インターコンチネンタルホテルズ、NASA、グラクソ・スミスクライン(製薬会社)などのデータ活用例やリーダーの振る舞いを通して、先を進む企業の共通点をあぶり出す。
これからのリーダー候補に読んでほしい一冊だ。
(新刊JP編集部)