【「本が好き!」レビュー】『AI vs. 教科書が読めない子どもたち 』新井 紀子 著
提供: 本が好き!先日、筆者の新井紀子氏の講演を聞く機会があった。本書の刺激的な内容を凝縮したもので、事前に本書を読んでいたことが講演の予習となり、ダブルインパクトの刺激性強いひと時でもあった。タイトルからしてインパクトがある本書は、東ロボくんで有名な国立情報学研究所の新井紀子教授による最新刊である。『ほんとうにいいの?デジタル教科書』や『コンピュータが仕事を奪う』に続く挑発的啓発書と言いたい3部作なのだ。講演は可愛らしいアニメ声とは裏腹に、自分の信念や予測に確信を持ってバッサリ切り込むタイプの話ぶり。本書もそれに勝るとも劣らない歯切れの良さである。
新井氏は研究をしていく中で、AI時代が到来するこれからの社会にコンピュータに出来ないこと、不可能な能力の獲得に人は向かわなくてはいけないと確信したようだ。自分のこの仮説に絶対の自信を持って、講演でも言い切るのだ。それは、AI、コンピュータは所詮計算機であり、その計算、統計、確率など数学に置き換えられないものはできないのだ。だから、AIが神になることもなければ、人類を滅ぼすこともないし、シンギュラリティも到来しないと言い切る。計算することができるもの、数式に置き換えられるもの、統計的、確率的にまとめられるものは人間の仕事を置き換えるAI。しかし、意味がわかり、特定のフレームに囚われない柔軟性をもち、自ら考えて価値を生み出せるような人は、AI恐るるに足らずと筆者の新井氏は言い切る。
本書の一番言いたいところは、氏が精力的に進めているプロジェクトである全国読解力調査を無償で子どもたちに受けさせ、その向上を図ることの必要性である。これまでの2万5000人の調査結果から導き出された中高校生の読解力結果には愕然とする。日本語がわからない、その結果教科書をまともに読めないのだという。その結果の学力低下、さらにAIによる仕事の喪失に繋がると筆者は憂うのだ。学校現場にいる我々はその結果に驚きを隠せない。自分の学校の子どもたちにこの調査をやってみたいと思ったのは私だけだろうか。その結果は恐ろしいけれど。
そして最後の一言、「日本の教育が育てているのは、今もって、AIによって代替えされる能力」は胸に刺さる。先日の講演は、少なくとも埼玉県内の多くの中学校長が聞いている。講演後、浦和の本屋さんからこの日の夕刻は本書が消えたような気がする。AI、シンギュラリティ、そして新井紀子はAL、プログラミング教育、小学校英語、道徳の教科化よりも恐怖を覚えるキーワードとなるかもしれない。
(レビュー:jouluribo)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」