【「本が好き!」レビュー】『地下鉄道 』コルソン ホワイトヘッド 著
提供: 本が好き!全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞等、
アメリカで数々の賞を受賞している話題作と聞いてはいた。
普段はあまり文学賞に興味を示さない私だが
ピュリッツァー賞受賞作となれば話は別だ。
この賞と私の相性がいいことは 既に確認済みだから。
そんなわけで発売前から読むと決めていたので
なるべく先入観を持たないよう情報を遮断した上で読み始めた。
原題はUnderground Railroad でピュリッツァー賞受賞作
とくればこれはもう史実を基にしたフィクションで
舞台は19世紀のアメリカ、
虐げられた黒人奴隷が自由を求めて南部から、北部をめざして逃亡していく話
あるいは命をかけてそれを手助けする人々の話に違いないと思っていた。
ところが、ところがである。
コーラの祖母は幼い頃、
同じ部族の物たちと共に誘拐されてアメリカへと連れてこられた。
途中何度も売られ、最終的に腰を落ち着けることになったのが
ジョージアの綿花農園だった。
もっとも彼女にはゆっくりと座っている時間などなかったとは思うが。
正確な歳は誰にもわからなかったが、
コーラは11、2歳の頃みなしごになった。
物語ではそのころからの彼女の苦難の人生を語り始められるのだが
もちろんその苦難は、そのときから始まったものではなかった。
ずっと以前、彼女がまだ母の胎内にいた頃から
彼女の人生の苦難は始まっていたに違いない。
やがて生まれ育った農場を後にして
逃亡生活をおくることになったコーラを待ち受けていたのは
目を覆いたくなるような悲惨な出来事の連続で
読みながらいったいどちらがよかったのだろう。
いったいどうしたらよかったのだろう。
と繰り返し問わずにはいられない。
問うたところでコーラ自身は決して後戻りはできないにもかかわらず。
奴隷制度の残酷さや自由を求める人々の戦いを描いた優れた作品は
これまでにもあった。
そういう意味からするとこの物語の本当のツボは
(そうした視点からも十二分に読み応えのある物語ではあるが)
手に汗握る逃亡劇でも
好むと好まざるとに関わらずコーラの逃亡に関わることになった人々の運命でもない。
ちょっと考えてみて欲しい。
この時代のアメリカには地下を走る列車は存在しなかった。
「Underground Railroad(地下鉄道)」という言葉は
逃亡奴隷を逃がすための人々のネットワークをさす隠喩だったはずなのだ。
ところが、この物語では実際に、
コーラは秘密裏に作られた地下鉄道に飛び乗って北をめざすのだ。
いやはや年の初めからなんともスゴいものを読んでしまった。
これから読む方のために多くは語るまい。
この作品がなぜアーサー・C・クラーク賞を受賞したのか。
あなたの目で確かめてみて欲しい。
(レビュー:かもめ通信)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」