デビュー作で芥川賞受賞 インド人上司の反応は?――石井遊佳さんインタビュー(前編)
出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
第95回となる今回は、『百年泥』(新潮社刊)で第158回芥川賞を受賞した石井遊佳さんが登場してくれました。
『百年泥』は、「百年に一度」という大洪水に見舞われたインド南東部のチェンナイで暮らす「私」が、水が引いた後の橋の上に残された泥の中から人々の百年間の記憶にまつわる珍品(そして人間!)が掘り出されるのを目撃するというユニークなストーリーと巧みな語りが特徴的な、石井さんのデビュー作。
痛快であり、時にほろりとさせるこの物語がどのようにできあがったのか、石井さんにお話をうかがいました。
(インタビュー・記事/山田洋介)
■芥川賞受賞、インド人上司の反応は?
――芥川賞受賞おめでとうございます。まずは受賞のご感想をお願いします。
石井:ありがとうございます。受賞については、まだあまり実感がないというのが正直なところです。
――候補になってから受賞まではどのように過ごされていましたか?
石井:自分の作品が受賞候補になったと電話で知らされたのが発表の一ヶ月くらい前で、それはチェンナイにある勤め先のオフィスで聞きました。
受賞までの間、自分のことがどう取り上げられているかとか、下馬評めいたことなどを友達がメールで教えてくれたのですが、なにぶんインドにいるので他人事といいますか。
――ご自身でインターネットで調べたりなどはしなかったですか?
石井:受賞の予想のようなものはあまり見聞きしたくなかったので、調べませんでした。いくら調べても、その段になって自分にできることは何もありませんし。
夫は調べまくっていて「取るんじゃない?」みたいなことを言っていましたけど、私は無理だと思っていましたし、エッセイを書いていたこともあって心を乱されたくなかったんです。
――結果、見事に受賞されました。
石井:受賞が決まってからすぐに日本に戻ってきたのですが、インタビューを受けたり受賞記念のエッセイを書いたり、わけのわからないまま忙しくしていて、自分の名前が新聞やニュースに出たりするのを直接目にしていないんですよね。
だから、受賞した際の電話会見でお話したように、人が自分の前世の噂をしているのを聞いている感じです。
――職場の反応はいかがでしたか?
石井:あまりわかっていないと思います。勤め先というのが福岡や大阪に支社があるチェンナイのIT企業で、そこでの私の上司は長く日本にいたことがあるので日本通ですし日本語も上手なのですが、文化的なことまでは知らないようです。
だから、候補になった時に「日本に芥川賞という有名な小説の賞があって、まあ無理だと思うけど万が一受賞したらいろいろやることがあるから日本に帰るかも」というような説明をして、受賞した時も報告しましたが、大きなリアクションはなかったですね。「何か賞を取ったらしいよ。有名な賞らしいよ」という感じで。
(中編 ■奇想溢れるデビュー作『百年泥』はこうしてできた につづく)