【「本が好き!」レビュー】『ほんとうにいいの? デジタル教科書 』新井 紀子著
提供: 本が好き!本書は約5年前の2012年12月に初版が出た岩波ブックレットの一冊である。ちょうど総務省の原口プランなる教育のIT化、デジタル教科書導入の囂しいときである。筆者は昨今、ロボットは東大に入れるかの「東ロボくん」研究で一世を風靡した新井紀子氏である。ちょうど来たる2月6日に県校長会で講演を聴く予定でもあるので一読してみた。デジタル教科書は今や当たり前のように教育現場にも登場しており、市民権を得てきたこの時期だからこそ本書の真価が問われるのではないか、という思いもありあえて今この時に読んでみた。
わずか70頁のブックレットであるが、その中身は濃い。数論理学を専門とする理学博士である新井氏は知識共有、協調学習の研究もされており、ロボット研究にも携わっていることから、デジタル教科書なるものが本当に学校現場で応用力を持ち、課題を解決する人材を育成できるのか、を真っ向から問うている。デジタル教科書の主な構成要素であるハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ、ネットワークの4つの視点から検証し、その効果や意義に疑問を呈しているのが本書の内容。大変示唆に富む提言となっている。
約5年前にこうした発言、提言をしていることに驚くと共に、同感できる点が多々あるのだ。かくいう私も教育のICT導入やネット、SNSに関わることが多いことから、きっと世間的にはデジタル教科書賛成、歓迎派と見られているだろう。しかし、実は私もデジタル教科書には予てから懐疑的なのだ。教科書会社、その他の教育関係企業の作成するいわゆるデジタル教科書である。デジタル教科書とデジタル教材は別物と考えている。新井氏の本書における数々の指摘には大いに共感するところが多い。
例えば、子供たちの学習ログの蓄積についての指摘も興味深い。この莫大なログを過労死寸前の多忙な教員がどう見て、分析しろというのかという鋭い指摘。全くだ。制作側、企画側はこんなこともできるし、こんなデータを活用できるという。しかし、それは本当に必要なものか、活用可能なことなのかの検証はあまりしない。他にも数々の刺激的かつ深lく鋭いもっともな視点が散りばめられている。5年も前に出ているものなので多くの人が手にしているだろう。私が寡聞にして今ごろ読み、感動していることに笑われるかもしれないが、今だからこそ新たに見えてくることもある。そして、新井氏の指摘が的を射ていることを知ることもできるのだ。
『「デジタル教科書を必要とする子どもたちにデジタル教科書を」という主張は正しいが、「すべての子どもにデジタル教科書を」という主張は正しいとは言えない。』という筆者の言葉は深いものがある。まだ未読の教員、そして教科書や教材を作成している企業の方々にはぜひ一読をオススメする。
(レビュー:jouluribo)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」