だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『ニューヨーク145番通り 』 ウォルター・ディーンマイヤーズ著

提供: 本が好き!

ニューヨーク145番通りといって、ぴんと来る人と、こない人に分けるとしたら、私は後者だ。おそらく私は観光バスで、こう言われて一瞬通り過ぎたくらいだろう。
"ほら、あのへんがハーレムですよ。"
と。だからハーレムと聞いて私が思い浮かべるのは、大半が映画などによるイメージでしかない。

 ハーレムに住んでいる人達の物語を文書で今回初めて読んだ。そこに住む彼等の行動や考え方が、とりわけ他の人達と異なる部分があるようには思わない。「ビッグ・ジョーの葬式」では、他人の葬式に感動したビッグ・ジョーが自分の葬式をやってもらおうと考える。語り手の僕は、面白がるが、
常識人のビッグ・ジョーの恋人や、その娘は大反対。あの手この手で止めさせようとする娘の作戦と、本当の葬式だと思っている大人達との行動のギャップが面白い。しかし、嘘の死がセンターラインにあるこの作品には、本当の死がすぐ側にある事を示すように、近所で人が撃たれたと、本当に何気なく描かれている。

 「キティとマックのラブストーリー」で、カップルの間に亀裂を生じるのも、とばっちりにしてはひどすぎる「ハーレムの極悪犬」の原因となったのも、弾丸だった。やはり、銃や警官が登場する度合いが、他より多い。しかしだからといって人々が皆、ことさら死に怯え、絶望して暮らしているわけではない。

 少女の愚直としか言い様のない愛情表現が、頑な男の心を溶かす「キティとマックのラブストーリー」、とぼけたおばあちゃんと白人警官一家の交情を描いた「あるクリスマスの物語」、暴力に対して暴力で立ち向かう事を良しとしない少年「モンキーマン」には、未来への希望がのぞいている。
ある短篇の主役が、他の短篇の傍役として顔を出すので、一人の人間のいろんな面がのぞけるのも楽しい。

金原瑞人・宮坂宏美訳。他「ボクサー」「アンジェラの目」「あるクリスマスの物語」「三部からなる物語」「ストリート・パーティ-145番通りの場合」収録。

(レビュー:星落秋風五丈原

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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『ニューヨーク145番通り 』

ニューヨーク145番通り

いいことも悪いこともひっくるめて起こる街―ハーレムの街角を舞台にした短編集。

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