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Bunkamuraドゥマゴ文学賞が決定 受賞作は松浦寿輝氏『名誉と恍惚』

Bunkamuraが主催する、「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」が決定し、小説家や詩人、批評家として知られる松浦寿輝さんの『名誉と恍惚』(新潮社刊)が受賞した。

この賞は、パリの歴史ある文学賞「ドゥ・マゴ賞」の名を冠した文学賞。既成の概念にとらわれることのない、新しい才能の発掘を目的に1990年に創設された。小説、詩、評論、戯曲を対象に、年に一度発表されるが、ユニークなのは毎年異なる一人の選考委員が受賞作を決定する点だ。

今年は翻訳家・評論家の川本三郎氏が選考委員を務めたが、昨年はロシア文学者の亀山郁夫氏が(受賞作は中村文則氏『私の消滅』)、一昨年は作家の藤原新也氏が(受賞作は武田砂鉄氏『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』)大役を果たした。

『名誉と恍惚』は、日中戦争当時の上海を舞台にした、長編小説。現地の工部局に勤める日本人警官・芹沢は、陸軍参謀本部の嘉山と青幇(チンパン)の頭目・蕭炎彬(ショー・イーピン)との面会を仲介したことから、警察を追われることとなり、苦難に満ちた潜伏生活を余儀なくされる。祖国に捨てられ、自らの名前を捨てた芹沢の、生き残りをかけた孤独な闘いを描いている。

川本氏はこの作品について

「ドゥマゴ文学賞の選考委員を引受けた時、何よりもまず「いい文章」を選ぶことを心した。
現代の小説にはあまりに軽い、深みのない文章の作品が多いから。
松浦寿輝さんの文章は、濃密でありながら端正、重厚でいて明晰、混沌雑然とした上海を描きながら乱れがない。
久しぶりにいい文章を読む歓びを味わった。」

としている。

本賞では、正賞として賞状とスイス・ゼニス社製時計が、副賞として100万円が贈られる。
(新刊JP編集部)

『名誉と恍惚』

名誉と恍惚

ふるさとなんかどこにもないが、生きてやる。おれの名誉と恍惚はそこにある。日中戦争のさなか、上海の工部局に勤める日本人警官・芹沢は、陸軍参謀本部の嘉山と青幇の頭目・蕭炎彬との面会を仲介したことから、警察を追われることとなり、苦難に満ちた潜伏生活を余儀なくされる……。祖国に捨てられ、自らの名前を捨てた男に生き延びる術は残されているのか。千三百枚にも及ぶ著者渾身の傑作長編。

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