だれかに話したくなる本の話

話題の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』、読者を引き付ける“文章の工夫”とは?

出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
第92回目となる今回は、話題の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社刊)でデビューした燃え殻さんです。

「1999年夏、地球が滅亡しなければボクたちは一緒に生きていくはずだった」
まだスマホがなかった頃の、「ボク」と小沢健二フリークの「かおり」の、文通から始まった不器用な恋愛模様。そしてSNSがつないだ現在と過去。

90年代後半のカルチャーを散りばめながら、大人になりきれない若者たちが必死に生きる姿と描いたこの青春小説は、ウェブメディア「Cakes」連載時から大きな反響を呼び、満を持して書籍化されました。

作者の燃え殻さんは、普段はテレビ番組の美術制作に携わるサラリーマン。
少し前まで「一般人」だった作者は、初めての著書にして自伝ともいえる本作がヒットした今、何を思っているのでしょうか。『ボクたちはみんな大人になれなかった』についてお話をうかがいました。

(インタビュー・写真/金井元貴)

■書店で自分の本を手に取る女性を見かけ「一瞬、恋に落ちかけた」

―― 『ボクたちはみんな大人になれなかった』は書店で品薄状態が続くベストセラーになっていますが、実感はありますか?

燃え殻:僕、買う人がいるのか不安で発売当日に紀伊國屋書店に行ったんですよ。そこで2冊購入したんですけど、まだたくさん積まれていて「これはまずい」と。でも、何日かした後にまた書店に行ったら品薄になっていて「マジで!?」と驚きました。

―― 数日で積まれていた本がなくなっていた。

燃え殻:「誰が買ってくれたんだろう。父かな? お父さんありがとう…」と思いましたね。それに、ちょうど僕が書店の中にいるときに、本を手にとってくれた女性を目撃して、一瞬恋に落ちましたね(笑)。なんて良い人なんだろう、と。

―― 書籍の帯にコメントを寄せている方々も豪華です。糸井重里さん、吉岡里帆さん、大根仁さん、小沢一敬さん、堀江貴文さん…。

燃え殻:すごくありがたいです。「Cakes」でこの小説を連載していたときに、面白いと言って下さった方々にコメントをお願いをしたのですが、ここまで豪華になるとは…。

―― この小説はもともとウェブメディアの「Cakes」で連載されていた作品ですが、そのきっかけを作ったのがツイッターでした。燃え殻さんはツイッターをかなり早い段階から使っていたんですよね。

燃え殻:ツイッターをはじめたのは2007年くらいです。確か仕事のお客さんとか、ゲーム会社の方に教えてもらって、140文字しか書けない媒体で、何かよく分からないけれど登録してみようと。

―― 「ミニブログ」と言われていましたよね。

燃え殻:最初は面白さがあまり分からず、新しいという理由でやっていて、仕事の関係者とのコミュニケーションだったり、会社の日報だったりみたいなことを書いていました。でも、せっかくいろんな人が見るのだから面白いことを書こうという気持ちはあって、自分なりに工夫しながら、ちょこちょこと続けていた感じです。

―― この小説の文章は、その一文に様々な風景や感情が濃縮されているように感じます。これは140文字で培ったものなのでしょうか。

燃え殻:僕自身、読書家ではなく、短いセンテンスでいろんなものを表現している文章の方が読み進められる人間なんです。だから、僕と同じようにツイッターの短文に慣れ親しんでいる人たちも読んでくれるんじゃないかという淡い期待がありました。
ツイッターで感想を読んでいると、普段本を読まないという人たちもこの本を面白いと言ってくれているので嬉しいです。

読みやすさや情景が浮かぶ文章作りは、小説を執筆する中で常に心がけていたことです。ツイッターやインスタグラム、フェイスブック、インターネットの記事、ケータイゲームなどいろいろ娯楽やツールがある中で、どうすれば小説を読む時間をつくってくれるのかなと思いながら書いていましたね。

中編「『SNSは関係を終わらせてくれない』。そこから生まれた話題の小説について聞く」へ

ボクたちはみんな大人になれなかった

ボクたちはみんな大人になれなかった

夢もなく、お金もない、そして手に職もない。二度と戻りたくなかったはずの“あの頃”が輝いて見える。大人になった今、思い出す、あの頃の恋愛。
アクセス殺到したweb連載小説が書籍化。“せつな痛さ”に悶絶すること必至の本作は、新たな時代の文学といえる作品です。

この記事のライター

金井氏の顔写真

金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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