【「本が好き!」レビュー】『あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた』アランナ コリン著
提供: 本が好き!タイトルを見て誰もが思う。9割が細菌、7割が水、2割が脂肪。私はどこに?9割が細菌、の意味に最後まで触れていなかったように思うが、腸内細菌に体が支配される様子がよく分かった。
我々が摂食し、消化して取り込んでいるかのように見える栄養の多くが、腸内細菌が摂食した後の廃棄物を吸収したものだ。
我々が食べ物をうまく消化・吸収する複雑な仕組みを作りあげるに当たって、繁殖力の高い細菌を体内に取り込んで共生する道を選んでいる。
すべて自前で進化を遂げるのは複雑過ぎるし、食糧環境の変化を考えれば、腸内細菌にアウトソーシングした方がいざという時の選手交代がやりやすい。
腸内細菌は一人一人違うし、同じ人でも食生活によってダイナミックに変化する。風邪などで処方される抗生物質には要注意だ。消化を支えていた腸内細菌を一掃してしまう可能性がある。その結果、アレルギーがでたり、自閉症をわずらったりすることもある。
病気の原因として、遺伝と生活習慣がすぐに思いつくが、近年の研究では腸内細菌のバランスをプラスして考えるらしい。
7年間、毎日ヨーグルトを食べ続け、風邪と花粉症から解放された自分は腸内細菌作りに成功している。とほくそ笑んだのもつかの間、筆者によればそう簡単ではないようだ。何百種類もの細菌が合計100兆個も腸内に棲息していて生存競争を繰り広げているという。たかだか100億個のヨーグルトを経口で放り込んで、どれくらい腸内で陣地を獲得できるだろうか、と筆者が疑問を投げかける。
腸内細菌が吐き出す廃棄物は、時には毒素であったり、時には脳の報酬系を刺激する成分だったりする。美味しいものを食べて美味しいと感じるのは、細菌が吐き出す報酬成分のなせる技であり、宿主に再び同じ美味しいものを食べさせて、結局は細菌に必要な餌を運ばせているのだ。にわかには信じがたい気味が悪い話だが、本当のようだ。本書を読んで腸内細菌を大事にしようという気持ちが強くなった。その気持ちが細菌にコントロールされていたりして。
(レビュー:Toshiyuki Oda)
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