【「本が好き!」レビュー】『本を守ろうとする猫の話』夏川草介著
提供: 本が好き!図書館本。
先日、私が銀河鉄道の夜を読むきっかけになった1冊です。
神様のカルテで有名な作者さんなんですが、残念ながらそちらは未読なので今回はじめてこの方の作品を読みました。
祖父をなくし、祖父の営んでいた古書店に引きこもる高校生・夏木林太郎が主人公。
林太郎がしゃべるトラネコのトラに導かれ、同級生の少女とともに本を救うために様々な迷宮に向かうファンタジーです。
内容としては非常にライト。
二時間半かからないぐらいで読みきれた読みやすい本です。
しかしながら、内容は痛いし辛い。
【閉じ込める者】【切りきざむ者】【売りさばく者】として本に関わる人たちが作る迷宮が、【最後の迷宮】として本自身が作り上げた迷宮で林太郎は迷宮の主たちと対峙し、対話することになります。
特に読んでいて痛かったのが【閉じ込める者】。
ここでは、多くの本を読むこと=えらいことだとしている男が存在します。男が読み終わった本は二度と読むことなくガラスケースに閉じ込められているのです。
私自身、感想ブログを開設してから数年間、毎日更新を心がけていました。
いくら読むのが早くても、フルタイムで働いた上で毎日本を1冊ずつ読むのは中々容易ではありません。
途中でどんどん読みやすい本ばかり読むようになり、趣味の一環というか読書記録としてはじめたはずのブログの更新が、本を読むこと自体が義務となっていました。
今は不定期更新になって自由に自分の読みたい本を読めていますが、それでも昔に比べて好きな本を何度も読み直すなんてことは中々出来ていないので読んでいて傷痕をひっかかれているようなそんな辛さがありました。
速読すらすごいなと思いつつ自分ではやりたいとは思えないので【切りきざむ者】はあまり共感出来なかったのですが、【売りさばく者】はなんとなくわかるな、と。
ラノベ業界なんか特にその傾向が顕著な気がします。ヒット作がでる→よく似た設定のどこかで見たことがあるような作品が次々発売される、と。
出版社も会社ですから利益を求めるのもわかります。売れる本を作ること自体は悪いことじゃないので微妙な気分になりました。
【最後の迷宮】で本自身と問答することになるわけですが、二千年近い時を超えて受け継がれ世界で一番読まれている本、ということで彼女の正体は聖書なのかな?と予想。
読む人がいなければ、本はただの紙束です。
それでも人がいる限り、形や質を変えつつも本がなくなることはないんだろうな、と思います。
本をあまり読まない人にも、本好きの人にも読んでもらいたい1冊でした。
(ただ、作者が憂う本に対するアレコレに対してあまりにも内容がライトなのでもうちょっとファンタジックにしてヤングアダルトレーベルで発表した方が良かったんじゃないかな?とも思いました。)
(レビュー:柊木かなめ)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」